もなかの皮
1959年3月「オール読物」

戦後の斜陽一家の苦闘を、ユーモアを交えて描き出した作品である。

感想
 見栄っ張りな斜陽夫人が、上手いこと体面を繕おうとしたところが化けの皮がはがれて・・・
 奥様の慌てようが手にとるようで可笑しい。ちょっと風刺のきいた話である。でも結果仲良くなるのだから、良いのである。
あらすじ
 敗戦で大打撃を受けた松田家。家の体面を維持することに汲々とする日々。一人娘の千鶴子がようやく結婚することになり、その費用を捻出する必要から、近所に見えないような庭の一角を売りに出すことにする。
 ようやく買い手が見つかり、無事に盛大な式を挙げ、ホッとしたのもつかの間、突然の地響きが松田家を襲う。翌早朝、今度は火事のような音。突き止めてみれば、土地を買った小川家から聞こえてくるのであった。家内工業でもなかの皮を生産しているとのこと。
 密に土地を売ったつもりが、この騒音のために近所に松田家の内実がばれてしまう。夫人の虚栄心は俄かに蒼ざめるが如何ともし難い。
 しかしこれがきっかけで近所同士での見得の張り合いが緩和され、親しい付き合いが生まれることになる。ひどい騒音にも慣れてしまうのであった。
本文より抜粋
「近所迷惑って、こういうことね、お母さま」
 ここに至って、寿子夫人は愕然としたのである。近所迷惑だ。そうだ。近隣の家々こそ、この地響きをより不審に思い、より不快に感じ、より非難し始めるだろう。
 松田家が工事を始めたとき、東隣の吾妻家や、南隣の原家、筋向いの仁久井家などでは何事が始まったかと瞠目し、
「いえ、娘が結婚いたしますので、何かと造作変えを致しております」
と寿子夫人がさり気なくいえば、たちまち羨望の情を露わにみせたものであった。
 それが、この地響きで内実が露見してしまうのだ。
収録書籍*〜*〜*
『美っつい庵主さん』新潮文庫 新潮社有吉佐和子選集第1期第3巻『女弟子』
『祈祷』講談社
参考情報*〜*〜*

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