| 蚊と蝶 |
| 1958年10月「文学界」 |
盲目の男とその強欲な妻の話。女のずるさ、あくどさをこれでもかと描き出した作品。
| 感想 |
| 気持ちの良い話ではない。貪婪な女の性が描出されていて、ぞっとする。最後、奇跡的に眼が見えるようになるところが、勧善懲悪的で有吉作品らしい。 |
| あらすじ |
| 平吉は中学卒業を目前にした頃、目の前を蚊が飛び回るような症状(飛蚊症)を発し、やがて失明してしまう。その後マッサージ師となった彼は、精進を重ねたこともあり、評判は上々であった。そんな平吉を旅館の女中として観察していたまつ枝は彼の腕を見込んで、自分を女房にしてくれないかと言う。結婚し、家を購入して、マッサージ業は順調であったが、名を聞いて弟子にしてほしいと言ってきた盲人の敏雄を家に入れたところ、まつ枝の様子がおかしくなってきた。幾度も問い詰め、ようやく浮気していたことを白状させるが、開き直っているまつ枝は、離婚はしないが、敏雄との関係は続けると言う。 平吉はある日、密かに眼科医の元を訪ね、眼を治す手立てを探る。そして、手術と入院にかかる費用を捻出するため、こっそり自宅を売り払って失踪する。 手術は見た目を良くするだけであったのに、白い蝶がふわふわ舞うのが見える。どういうわけか片目の視力が戻ったのであった。まつ枝たちの行方はしれないが、平吉はもとの仕事に戻り、順調な生活を続けているのであった。 |
| 本文より抜粋 |
*平吉の心理描写*まつ枝の一方的な解決策の前で、平吉が抵抗を示さなかったのは、彼が心の底から彼女を憎悪したからである。あのとき平吉が思ったのは、自分が盲目であるということだった。敏雄が同じ盲人だということを彼はもう考えなかった。若い盲人に自分が見返られたとは彼は思わなかった。一途に、眼さえ見えたら、これだけ踏みつけにされることはないのだ。眼さえ見えたら、まつ枝に仕事の主導権を握られることはないのだ。眼さえ見えたら、姦婦姦夫を叩き出しても自分は困らないのだ。眼さえ見えれば。眼さえ、この眼さえ。 |
| 収録書籍*〜*〜* |
| 『江口の里』中央公論社・中公文庫 新潮社有吉佐和子選集第1期第2巻『私は忘れない』 新日本文学全集4『有吉佐和子』集英社 |
| 参考情報*〜*〜* |
| HOME |