油煙の踊り
1957年12月「別冊文藝春秋」

敗戦の痛手に苦しむ、斜陽一家の話。
すっかり意気地のなくなった両親と、気丈に生きる娘の姿を対比して描く。
戦後の日本の姿が垣間見える作品。

感想
 ちょっと湿っぽい話。加寿子は力強く生きているのだが、敗戦の現実のやるせなさが伝わってくる感じである。
あらすじ
 戦災で広大な邸宅を焼かれ、貧乏生活を余儀なくされている江波家。帰国子女であった娘の加寿子が、英語力を生かして一家の生活を支えている。ある日彼女は知恵遅れの弟にハーモニカを買い与える。喜んで吹き鳴らすが、上手でもないのでうるさがられてしまう。
 そんな折、昔の庭師が訪ねて来て、只で良いから庭の手入れをさせて欲しいと言う。江波夫人は喜んで任せる。
 一方、娘が酔って深夜に帰宅することを良く思わない江波氏は、注意をするよう夫人に言うが、一家の大黒柱である娘の機嫌を損ねることを恐れて、口に出せずにいる。するとどうやら部屋に男を連れ込んでいることも分り、ついに江波氏が叱りつけると、加寿子は平然としてそれを認め、どこかで羽目を外していなければ一家を背負っていくことなど出来ないと言うのであった。
 ところで庭仕事は順調に進み、いよいよ防空壕を埋めようかという頃、誰かが中に入った気配があることに庭師が気付く。見張っていて突き止めたところ、それは加寿子の弟であった。加寿子が部屋に男を連れこんでいるとき、隣室の弟はこっそり防空壕へ入り、ハーモニカを吹くのであった。防空壕の中を照らす蝋燭の油煙を見て作曲した「油煙の踊り」を、彼は庭師に聞かせるのであった。
本文より抜粋

*加寿子のセリフ*

「パパの顧問料が入るのはせいぜい今年一杯でしょう。ママには貯金が一文もなくなっている。そして私は三十過ぎたの。私はつましい老嬢として一家を養う美徳の人にはなりたくないんです。寒々しい孝行娘なんて想像するだけで願い下げだわ。私は贅沢が好きなの。どこかで羽目を外していたいの。息抜きをしないで、こんな暗い家を背負うことなんか出来ないわ」
収録書籍*〜*〜*
『美っつい庵主さん』新潮社・新潮文庫 新潮社有吉佐和子選集第1期第3巻『女弟子』
『江口の里』中央公論社 新鋭文学叢書9『有吉佐和子集』筑摩書房
参考情報*〜*〜*

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