| 帯 |
| 1956年「創人」 |
桂子と伯母の富代のある一日が描かれる。
富代と、彼女の着付けを手伝った文さんの姿を通して「老い」を考えさせられる作品。
| 感想 |
| 若い桂子から見た、伯母の富代の様子が描かれている。若さに固執する熟女の健気な努力と言うか、悪あがきと言うかが、若い姪の目を通して暴かれている。他に「水と宝石」などもこうしたテーマが見られるが、この作品では女性に限らず、富代の夫や、文さんの姿を描いて、人が老いるということについて考えさせられるのだ。若死にや自殺でもしない限り、老いずに死ぬことはできない。若さにばかり価値を見出すような世の風潮の中にあって、どうしたら「老い」を楽しめるのか考えることは大事なことだと思う。気が重いけどね。 |
| あらすじ |
| 新聞を見て、死亡事故の多さに悲鳴をあげた姪の桂子に、富代は「死ぬのは案外楽だ」と言う。それは亡夫のことを思い出してのことだった。老いるのを極端に恐れていた夫の死を見送って、死ぬのは老いて生きるより楽だと感じたのだった。 その日は、富代が踊りの稽古に通っている花柳某一門の温習会の日で、彼女は姪に新調した帯を自慢気に見せる。「黒い色はきりっとして若々しく見えるだろう」という姪の言葉に気を良くした富代は、最近、「可愛らしく踊る」「若く見せる」が口癖になっているのだ。 その帯のために呼んでおいた衣装付けの名人:文さんが楽屋に入ってくると、すっかり老いていて、皆で、文さんはいくつなのだろうと噂をするほど。しかし口は達者で、富代の帯も手伝いはいらぬと一人で締め上げた。 富代の踊りが始まり、客席は若々しく美しい富代の姿に湧くが、踊っている最中に、なんと名人の着つけた帯がほどけてしまったのだ。それでも富代は最後まで踊りつづけた。桂子が楽屋へ入っていくと、文さんがいて、その目の暗さに足がすくんで入口に立っていると、富代に肩を押しのけられた。その強い力に、伯母の若さを感じて救われる桂子であった。 |
| 本文より抜粋 |
| 広い部屋はがらんとしていた。脱ぎすての畳み掛けの衣類がなまめかしく散乱している。文さんが、奥の壁に背をすりつけるようにこちらを向いて立っていた。桂子を見て、へ、と口を曲げて笑った。思いがけず人の憐れみを誘う悲しさがあつた。が、次の瞬間、彼は畳の上によろよろと崩れて、真向かいの大鏡をぼんやりと見ていた。その眼の空洞のような暗さに、桂子は足がすくんで、入口に立ちつくしていた。 |
| 収録書籍*〜*〜* |
| 『まっしろけのけ』文藝春秋新社 |
| 参考情報*〜*〜* |
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