閉店時間
1961年4〜12月「読売新聞」

東京デパートで働く、3人のデパートガールを中心にした青春小説。
仕事の悩み、恋愛などを瑞々しい筆致で描いている。

感想
 現代から見れば、ここで描かれている女の子達は、初々しすぎてとても適齢期の女性とは感じられないほどであるが、何だか懐かしさがあるというのか、不思議な心地よさを感じる小説である。青春が息づいている・・・とでも言えるだろうか。
ほのぼのしている点では、『若草の歌』と似ているが、本作品の方が、不倫で苦しむ辛い心理が描かれていたり、女性の働く態度を云々する男性の意見があったりで、ただ甘いだけではない良さがある。
あらすじ
 東京デパートで働く、牧サユリ・藤田節子・松野紀美子は、同じ高校出身の仲良し。サユリは容姿を買われてエレベータガールを、節子は地下の食料品売り場で、紀美子は呉服売り場の勤務で、もう4年目を迎えている。
 紀美子は、同僚の生方という大卒新入社員が気に入らない。同い年ではあるが、入社歴の長い彼女を先輩として立てることはおろか、彼女の勉強不足を皮肉ることもしばしばある。
 節子は、一緒の売り場で働く、仕入先の青年:竹井と親しさを増しているが、彼は、売り場の責任者によって理不尽な左遷にあい、デパートを去ってしまう。
 サユリは、エレベーターの中で声を掛けてきた、宣伝部の畠とデートを重ねるようになる。畠は既婚者でもあり、未来のない恋愛に振り回され、サユリは疲れ果ててしまう。服装が派手であるとか、不倫をしているのではないかと同僚から責められたことをきっかけに、突然、デパートを辞めてしまったサユリは、夜の街で働くことになる。
 一方、節子と竹井は、順調に愛を育み、楽しく将来の相談をしている。
 また紀美子の方は、彼女が、万引きしかけた客に上手に商品を購入させたことで、生方の彼女を見る眼が変わり、二人の気まずい関係が好転。少々のトラブルもあったが、やがてこの二人も結婚することになる。
本文より抜粋

*生方のセリフ*

「会社側は女店員に責任を持たせたがらない一方で、女店員の方も実は責任を持ちたくないんじゃないか。結婚までの腰掛けで、坐り具合がよければ結婚しても続けようか・・・そんな気で働いているのが多いんじゃないかい?」
「・・・・・」
「日本の百貨店の社員万引きの場合、男だって同じ条件下に置かれているのに、女店員の方が圧倒的に多いんだよ。どの会社も極秘にしているから、その統計は公表されていないんだけれども」
「・・・・・」
「男は就職したら、そこを終生の職場と考えているから、会社が仮に与えなくても自分で自分の責任を持つ。女は、そこへ行くと、仕事に対する態度が甘すぎるんだ。所持品検査が女店員だけを対象にしているというのも、考えようでは身から出た銹なんだぜ。・・・・・」

*節子と竹井の会話シーン*

深夜の電車には酔客が多かった。顔を赤くしているもの。座席につぶれたように眠っているもの。意味のとれない言葉をぶつぶつ云っているもの。
「節っちゃん、少なくとも僕らは、結婚というものは詰まらんものだというような大人には、ならないようにしようね」
「ええ」
座席は空いているのに、二人は入口近くに立ったままで、固く手を握り合っていた。
収録書籍*〜*〜*
『閉店時間』講談社
参考情報*〜*〜*
「閉店時間」鑑賞の記録

HOME