落 陽
1961年3月「小説新潮」

中国の楊という画家の物語。
王昭君の肖像画を依頼され、その美貌をいかに再現するかに苦慮する姿が描かれる。

感想
 悲劇なのだが、とても面白い作品である。王昭君という女性に興味を持ってしまった。
 この作品は、活字になった最初の小説「落陽の賦」を書き直したものなのか?「落陽の賦」の書き出し部分の写真が『作家のアルバム 有吉佐和子』に掲載されていて、ちょっと似ているようなのだが。
あらすじ
 漢の元帝は後宮に3千人もの美女を抱えていた。皆、支配下の大名からの献上である。誰を伽に召すかに頭を悩ませていたある日、絵を描かせて、それを見て決めようと考えた。画家がたくさん召し出されて、美女たちの絵を次々描いて行く。帝はそれを見て選んでいたが、しばらく経つと、いつも同じ画家が描いたものであることが判明。その画家が楊であった。彼は生活に困った時に、娼婦の絵を描いていたのだが、たいして美しくもない彼女たちを引き立てるために、イメージのあった花を背景として描いたところが好評を博した。今回も同様の手で絵を描いている。
 たくさんの美女を描くことにも飽き、収入もたくさんあったので、酒びたりの生活を続けて、もう後宮からの依頼は断わるようになっていた。ところが、昔、世話になった宦官に是非にと頼まれ、いやいや後宮へと足を運んだ楊の前に現われたのは、それまで見たこともないような美女、王昭君であった。どんな花でも彼女の美しさには及ばす、これまでの手法は使えないため途方に暮れ、ポーズを替えてみたり、宝飾品を外させて見たり、挙句、酒を飲んで集中力を高めてみたりしたものの、どうにも納得できるものができない。心配した宦官に急かされるように、何とか仕上げたが、どうも王昭君にも気に入ってもらえなかったようであった。楊は、若い頃、厳しい修業を避けて、酒に逃げてきたことを心底悔やむ。
 ところで帝は匈奴を抑えておくために、後宮の女性を一人、妃として与えることにした。たくさんの絵を見て選んでいると、背景の美しい花もなく、飾り気のない王昭君の絵が目に付き、彼女にすることに決める。僻地へ向かう挨拶に、はじめて帝の目の前に姿を現した王昭君のあまりの美しさに、帝は玉座から腰を浮かす。しかし、決めてしまったことはどうにもならない。彼女の絵を描いた画家は誰だということになり、わざと醜く描いたという罪で、後日、楊は首の座に着くことになってしまった。
本文より抜粋
 小柄で貧しげな女が喪服にも似た衣にうずくまるように現れるものと思っていられた帝は、このとき危うく玉座から腰を浮かされるところであった。宝石をちりばめた緑なす黒髪、黄金細工を煌めかせた耳飾り、金糸まばゆい華麗な衣装、それが思いも設けず後宮第一の美貌とふくよかな肉体にまとわれているのが、帝には一度に考えまとまらず、尊貴の生まれにも似ぬ取り乱し方であった。これが匈奴の呼韓邪に下げ渡すと自ら定めた後宮の女だとは信じかねた。
 この者が王昭君であるか。
 宦官に下問する玉音は、おそれ多くも震えを帯びていられたのである。
収録書籍*〜*〜*
『ほむら』講談社
参考情報*〜*〜*
『王昭君』

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