| 亀遊の死 |
| 1961年6月「別冊文藝春秋」 |
幕末の岩亀楼という遊女屋が舞台。
異人の妾になるのが嫌で死んでしまった遊女:亀遊の話を、朋輩のお園が語る。
『ふるあめりかに袖はぬらさじ』とほぼ同内容の短編小説。
| 感想 |
| 『ふるあめりかに袖はぬらさじ』で書いたように、劇化した作品の方が面白かった。1人語りでは、戯曲のように勢いのあるセリフのやり取りは望めない。また、『ふるあめりか…』では亀遊の自殺の最も強い要因は藤吉への叶わぬ思慕と感じられるが、こちらは、異人への恐怖が最も強かったように感じられる。 |
| あらすじ |
| 舞台は横浜の岩亀楼という遊女屋。伊留宇須が亀遊を迎えに来た日、待っていてもなかなか彼女が出てこないので、古馴染みの芸者:お園が部屋へ迎えに行き、自殺しているのを発見する。 お園は亀遊が吉原にいたころから知っており、横浜で再会した初めから、亀遊は異人を怖がっていた。吉原にいた当時でも、異人を嫌った花魁の話は聞いたことがあり、尊皇攘夷の儒者として名高い大橋から、お園はその花魁が詠んだという唄を習ったことがある。「露をだに厭う大和の女郎花、ふるあめりかに袖はぬらさじ」。ところが年配の芸者はその唄はさらに数年前に聞いたことがあるのだと言っていた。お園は、亀遊があまりの異人恐怖で病気にでもならねばよいがと思っていたが、心配が的中し、病に伏してしまう。通訳の籐吉の励ましと彼が与えた薬でようやく回復した亀遊は、店に出るようになり、ある時伊留宇須に見初められたらしい。藤吉と亀遊の仲には薄々感づいていたお園は、駆け落ちするなら手伝おうかと思っていたが、そうはならなかった。遊女と医学への志を持つ通訳の籐吉ではどうにもならなかったのだ。 亀遊の自殺で岩亀楼は大慌て。異人相手の商売もしていたことが攘夷党にばれたら騒ぎになるからである。急いで埋葬を済ませ、ホッとしたのもつかの間、「異人嫌いの亀遊 本邦婦女列伝の一」という印刷物と瓦版が出た。「異人を嫌って、父祖伝来の懐剣で喉を突いた、あっぱれ烈婦!」そして辞世の句として「露をだに厭う大和の女郎花、ふるあめりかに袖はぬらさじ」が紹介されていた。お園はそれが嘘であると知っていたが、世間での攘夷女郎亀遊の名は高まるばかりで、岩亀楼への客も増え、そうした客が亀遊の話を聞きたがると、芸者のお園は口から出任せで、世間での評判に合わせて脚色した話もしていた。 ある時そうして来た客が大橋の弟子であることを知り、それなら攘夷女郎亀遊の話のからくりを知っているに違いないと茶目っ気を出したところが、とんだ怒りを買ってしまう。刀で斬りかかられ、恐ろしい思いをしたお園は芸者を辞め、堅気の女房になっている。 |
| 本文より抜粋 |
*お園と亀遊の会話*「お園さん、異人さんと寝た女は身体が裂けるんだって。だから唐人口の遊女は、もう日本人相手が勤まらないんだって」「それほどのことはないでしょうけどねえ」 「いえ、本当だって。昨夜のお客は洋妾と浮気してがっかりしたって云ったわよ」 「悪ですねえ」 「そのお客は、異人さん相手の商売をしているんだって。異人さんの言葉なんか、ぺらぺら云うのよ。異人さんは三度の食事に刃物をふるって肉を切るんだって。血がその度にどろりどろりと食卓に流れるんだって」 |
| 収録書籍*〜*〜* |
| 新潮社有吉佐和子選集第1期第11巻『華岡青洲の妻』 『三婆』新潮文庫 『雛の日記』文藝春秋新社 新日本文学全集4『有吉佐和子』集英社 |
| 参考情報*〜*〜* |
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