キリクビ
1956年4月「三田文学」

舞台用の小道具で、切り首を専門に製作する職人の物語。

感想
 キリクビ専門の職人がいたなんて知らなかったので驚いてしまった。生きている人の首から上ということではなくて、ちゃんと死に顔にしなければならないなんて大変だ。そんなものばかり作っているなんて、どんな気分なんだろうと考えてしまった。
 この作品中にも、有吉さんの古典に対する考えが出ていて興味深い。「いい若い者が、なぜそんな古臭いものに興味を持つんだ」と言われる度に「私には古くないのよ」と答えていたのだろう。
あらすじ
 舞台用小道具製作会社「黒岩」が舞台。キリクビ(切り首)専門の職人が、新たに出来上がったキリクビを持って、役者の鳴駒屋を訪れる。そこにいた英国人のモートンがキリクビに強い好奇心を抱き、後日、通訳役の敬子を伴って「黒岩」を訪れる。
 キリクビを見せて欲しいとの依頼に、最初は無愛想であった禄蔵を初めとした職人達も、モートンの熱心さに次第に気を良くし、次々見せてくれるようになった。いくつも見ていると、熟練の職人の手になるものは、キリクビに死の影が刻まれていることが、敬子にさえ分るのであった。
 そのうち帰国が迫ったモートンがキリクビが欲しいともらすと、禄蔵が彼のキリクビを作ってあげると言い出す。しかし、これまで経験が無いだけに、外人の死に顔を作るのが難しく、四苦八苦しているうちに、禄蔵は亡くなってしまうのであった。
本文より抜粋

*敬子のセリフ*

「ミスター黒岩達の年齢は、一番多感な年頃で、戦争という文化の断層に出会したからよ。戦争を頭で受取らなかった私達には、あやふやでも継承ができるようだわ。だけど最も戦後派と思われている世代は、今度は鮮烈に古典を感じ取るでしょう、彼らには全く目新しいという意味で。私は幼年期を外国で過ごしてしまったから、そういう結論がだせるのですけれど」
収録書籍*〜*〜*
『まっしろけのけ』文藝春秋社 新潮社有吉佐和子選集第1期第3巻『女弟子』
新鋭文学叢書9『有吉佐和子集』筑摩書房
参考情報*〜*〜*

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