女 館
1965年6月講談社

怪しげな新興宗教が成立する過程を描いているような、薄ら寒い物語。
有吉文学には珍しく、悪事を働こうとする男が主役の話である。

感想
 霊感そのものはともかく、そういった超人的な事象にすぐ縋りたがる人間の弱さが暴かれている。もちろん騙す方が悪いのだが、こうも簡単に騙されるのかと思うと何だか情けなくなる。
 騙した奴が騙されて・・・という結末に、著者のいつもながらの正義感が垣間見えるようだ。 また女を操って、いい気になっている男をギャフンと言わせる点では、『不信のとき』と似ているかな。
あらすじ
 主人公の松島昭一は、和歌山の旧家の跡取。祖父が亡くなったことから、広大な家屋敷を相続するが、東京で育った彼は、叔父の頼みを受け入れ、1千万円でそれを譲渡する。この金で、何をしようかと迷う昭一に、祖父の妾であったお染という老婆が、近隣に住む霊感少女:妙子に相談することを勧める。
 妙子に会って後、儲けという字が信者と書くことから、信者をつくれば儲かるのだと思いつき、昭一は、妙子とお染を伴って、東京へ戻る。大金を預けた銀行の紹介で、鬱蒼とした大きな館に棲みつき、さらに大道易者をしていた静子を手伝いに雇い入れる。しばしば出入りしていた超一流のバーで偶然に小耳にはさんだ政財界の大物の悩みを、妙子の霊感で解決してやったりしたことから、妙子の信者は増加の一途を辿る。
 一方、お染は妙子を立てるあまり、昭一をないがしろにするようになり、昭一は面白くない。そんな彼に同調する静子と、昭一は一線を超えてしまったことから、彼女の嫉妬と肉欲にがんじがらめになってゆく。妙子はといえば、高校生にもなり、自我が芽生え、自由を欲しがるようになるが、人助けの使命はどうするのだと昭一に言い聞かされ、ひとまずは彼に従う。
 しかし、彼女の霊感が政治にまで影響を与えていることを懸念し、霊感を商売道具として利用する昭一にも嫌気がさして、ついに家を出てしまう。
 時期を同じくして、お染も家を離れることを表明し、これまでの未払い賃金として、1千万円を要求する。馬鹿げた金額と一笑に付していた昭一だが、静子も突然家出し、途方にくれる彼のもとに、お染の代理人であり、彼女の恋人であるという弁護士がやってくる。
本文より抜粋

*昭一と妙子の会話*

「妙子。君は君の信者たちをどうするつもりなんだ。今日だって家の中にびっしり人間が詰めかけて、君の霊感を頼ってきている人たちがいるんだぜ。その連中を、君は見捨てる気か!君は君の使命を忘れたのか!」
・・・・・
「おいでになった方々には、こう伝えてください。みんな、できるだけの努力をして生きていけば、それでいいのです。運も不運も、愛と誠意と努力があれば、必ず人生は報われるはずです。そう云ってください」
「誰につけられた知恵なんだ、それは!」
「誰につけられた知恵でもないわ。ひょっとすると、あなたのおかげで、私に生まれた知恵なのかもしれないわ、昭一さん」
「なんだって!」
「興奮しないでちょうだい。私は、私自身が自由を欲しいと前々から思ってはいたの。でも、あなたが使命感という言葉で私を引き止めたとき、私もそれが私にあるかと信じて、自分の自由を捨てて奉仕しようと思っていたの。でもそれは間違っているわ。昭一さん、私の霊感は当たるのかもしれないけれど、一つの国の政治にまで影響を与えるようになったのでは、日本の国があんまり情けないと思ってきたのよ」
収録書籍*〜*〜*
『女館』講談社
参考情報*〜*〜*

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