| 脚 光 |
| 1961年4〜12月「婦人倶楽部」 |
若い平凡なOLが思いがけないことで女優になって行く話。瑞々しく爽やかな作品である。
| 感想 |
| 文庫本にもなっていなかったので期待せずに読んだが、予想外に面白かった!さすが有吉さんだ。下に書いたあらすじには入れきれなかったエピソードが幾つもあり、例えば、輝子の恋愛問題や祖母と母の確執の原因などであるが、それらが作品に厚みを加えている。 “本文より抜粋”に取り上げた最後のシーン、どうということはないのだが、幕が開く瞬間の緊張感がゾクっとするほど伝わって来ると同時に、輝子の明るい前途を暗示するようで印象的であった。 |
| あらすじ |
| 大道輝子は東京にある製薬会社の宣伝部に勤務するOL。ある日の帰り道、1枚のポスターが彼女の目に留まる。「女優募集 劇団アシカビ」。それを見て思い出したのは、勤務先に出入りするある印刷会社の専務:橋田老人の言葉で、大柄な彼女のことを「いい体をしているから、ただの事務員をしているのは惜しい」と言うのであった。さらに日を同じくして会計課長からも「女優になったらいいのに」とも言われた。そんなことがあってか、何とはなしにその劇団に参加することにしてしまった。祖母にそのことを教えると、女優になったのなら結婚はどうするのかなどと飛躍したことを訊かれ、笑ってしまう。しかし恋人の健二に同じことを告げ、女優になったことを趣味や娯楽と割り切られると、それはそれで面白くない。 輝子は劇団の稽古に通うことを楽しんでいたが、他の団員達の眼には彼女が真面目に取り組んでいるようには映らず、非難の対象になってしまう。しかし輝子から見れば、上演の予定もない小さな劇団で演劇精神云々と言っていることの方がおこがましく思える。 そんな折、橋田老人に近頃楽しそうだがと訳を訊かれ、女優になったと教えたところ、そのことが社内に広まってしまった。会計課長も噂を聞きつけ、自分も昔は演劇青年であったと言い、輝子を本人が戸惑うほど激励するのである。その後のある日、会社の偉い人から急に会議室に呼び出しを受け、製品の宣伝に関する新しい企画を説明され、意見を求められる。有名な芝居のセリフの書抜きを応募者に朗読させるコンテスト。社内に女優がいるなら意見を訊いてみようということらしいが、何とも言い様がなく、曖昧に肯定するとやることが決まってしまう。さらに輝子は、劇団の何人かとサクラとして出演することを依頼される。劇団ではそんなコンテストに出るのは堕落だと批判的な意見もあったが、飲み代を稼ごうという気楽な意見も出て、何とか出場にこぎつける。 このコンテストがきっかけで、輝子は審査員をしていたある女流劇作家の目に留まる。勤務先に放送局のプロデューサーから電話が入ったときは冗談だと思っていたが、輝子はあれよあれよと言う間に、本当の女優への道を進むことになってしまう。周囲の期待と嫉妬のなかで、本人が好んだわけでもないのに、それまでの生活を続けることはできなくなる。劇団も会社も辞めざるを得ない。結婚するはずだった健二との仲も壊れてしまう。 しかし輝子はようやく女優への道を歩く覚悟を決めた。初めての舞台出演がちょうど良い目標になった。同じ頃、アシカビにいた谷津と竹山がプロとして活躍し始めたのを知り、彼等から、最も輝子に批判的だった寿美子が劇団を辞め、結婚したことを聞く。後日再会した寿美子からは励ましを受ける。自分の背後には、たくさんの人の様々な思いがあることを感じる輝子。いよいよ初日が来た。 |
| 本文より抜粋 |
*輝子が女優になると聞いたときの祖母の言葉*「遊芸とゆうたら一口に色街の妓が習うもんやと、輝ちゃんも思うかしらんがのう、昔は士族町家の娘の身だしなみでなあ、それでも家に万一のことがあったら、それを頼りに身を売る覚悟は誰でもつけていたもんや。それを性根とゆうてなあ、その性根の据わった娘はんは芸も早う上ったんえ。お茶やの、お花やのもなあ、たしなみたら趣味たらいう、のんびりした気イだけでは習いきれるもんやなかったんえ」*最後のシーン*今まで走り廻っていた周囲が、一瞬ぴたりと止んで息を潜めた。ベルが鳴りやみ、前奏音楽が始まっていた。客席は、真っ暗になっているはずである。私は、たった一人、舞台の中央に、カーテンを距てて観客に向かって立っていた。大道具の人たちも、衣装つけの姿も、かき消すようにいなくなっていた。祖母も、橋田老人も、阿部先生も、谷津敬作も、私の脳裡から消えてしまっていた。幕が上れば、大道輝子も消えてなくなるのだ、それが演劇なのだ、と、私は、幕足が舞台から浮上る瞬間、目を射る脚光とともに、閃くように感じていた。 |
| 収録書籍*〜*〜* |
| 『脚光』講談社 |
| 参考情報*〜*〜* |
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