さて感想であるが、新春ドラマに相応しく、ちっとも深刻ではないドタバタ劇に仕上がっていておもしろかったと思う。原作の持つエンターテイメント性を反映したドラマであった。
これを観てから、すぐ原作をサラリと読み直してみたが、この小説も脚本や演出によっては、ひどくドロドロしたサスペンスにもなり得るだろうと感じた。「華岡青洲の妻」の嫁姑の確執が、原作では「悲劇」と思えるのに、舞台では「喜劇」と私の目に映った如くである。ドラマでは、そんなに深刻な人間関係が描き出されてはいなかったし、見ていて、八重垣光子を殺したくなるような心情にはならなかった。いつでも大抵そうだが、原作に較べると映像化されたものの方が表面的で深みが足りない。でも、お正月から人を恨んだり、殺したくなる必要もないしね。
先に見ていた友人が「加藤治子の16歳だかは、凄かったよ〜。十朱幸代とはちょっと違った」と言っていたので、楽しみにしていたが・・・。テレビでは歳は隠し難い。残念だったのは、彼女の途切れ途切れのしゃべりかたが、舞台の稽古中も、本番中も同じであったこと。原作では、稽古中はやる気は見られないし、息も絶え絶えのお婆さんなのに、本番ではしゃきっとして流暢にしゃべり、さすが大女優の貫禄を見せるのだけど。加藤治子のあのしゃべり方は、いつでもいっしょだが、あののんびりした感じは人を苛立たせるのにうってつけで、八重垣光子に合っているとは思った。でも、いつも一緒ではネエ・・・。
中村勘十郎役の北村和夫はずんぐりむっくりで顔が大きく、とっても笑えたけど、原作でもあんな風なイメージだ。舞台で遠目に観たらどうか分らないが、TVではネエ・・・。
主役の小野寺ハル役の浅野温子、渡紳一郎役の風間杜夫はかなりイメージどおりで良かったと思う。小野寺ハルの脳天気で、おおげさなところが非常に良く出ていた。
原作とストーリーを比較すると、大筋では原作どおりと言える。細かいところでは、まず脅迫電話は、原作では舞台当日のある日に突然掛かってくるが、ドラマでは稽古に入る前から掛かって来ていた。また原作で八重垣光子が愛飲していた「泡を抜いたノンアルコール・ビール」が、ドラマでは「ノンアルコールのワイン」にされていた。
大きいところでは、八重垣光子を殺そうとした犯人である波子の母親が殺人を犯す活躍は省かれ、客がひとり殺されるが、それは波子とは関係のない殺人とされた。つまり波子とその恋人は「2億円寄越せ」の脅迫と、殺人未遂程度の罪しか犯していない。原作では、波子が辛い人生を送った様子が描かれるが、ドラマでは描く時間が足りなかったんだろう。だから殺人まで犯そうとした波子の心情はあまり伝わっては来ない。それに波子は看護婦だったのを女優にしようと思わせるほどの美人のはずだが、有森也実ではちょっと物足りない。可愛かったのに、すっかりやつれ果ててしまったのは、余計なことながら、なぜなのか気になってしまった。
また波子の母親が出てこないから、引退した刑事の活躍も描かれなかった。ミステリーとしてのおもしろみはなかったな。まあ、私は犯人を知っていたからかもしれないけど(笑)
お正月向けの軽い娯楽作品としては上出来だったと思う。集中して観ていないと、分らなくなってしまうということもないし、飲んだり、食べたり、しゃべったりしながらでも楽しめる。唯一、すっごく残念に思っているのは、ラストシーンに期待していたのがはぐらかされたこと。原作のラストを生かして欲しかったな〜。でもそれには、ほうぼう手直しが必要になってしまうね。もっとわがままで迫力のある八重垣光子でないと! |