『紀ノ川』を鑑賞する上でとても役に立つビデオである。
紀ノ川はもちろんのこと、周囲の景色や、古い家屋、衣装など、古い時代のことでイメージしにくかったことが、映像によってはっきり確認できる。かなり原作に忠実に制作されており、小説に出てくる台詞もそのまま使われることが多いので、興味深かった。方言の発音も、舞台に較べれば格段に優れていると思う。
全体的にかなり長くて、現代の映画に較べるとずいぶんのんびりした感じである。ただ川の流れを映しているというような、カットしたくなるシーンも少なくないが、当時はこれが普通だったのだろうか。また、映画のテーマとしては「旧家の崩壊」を花の姿を通して描きたかったのか、おどろおどろしい音楽が全編を通して使われている。
出演者については、花役の司葉子は良いとして、文緒役の岩下志麻はきれいすぎる!文緒のガラッパチで元気が良すぎるところが出ない。何をやっても、美しく品が良すぎる。小説の文緒は、きれいな着物を着せても、グズグズに着崩してしまい、しっくり着こなすことができないのに、岩下志麻では、擦り切れた木綿の着物を着せたとしても、絹の着物を着ているように見えてしまう。これは、モデルである有吉さんのお母さまに気を遣ったんだろうか?
文緒がこんな風だから、小説のように、花の芯の強さと、文緒の表面的な強さを対比して描くことができずにいる。有吉さんは、女性の生き方として、家に縛られて生きることを奨励はしていないが、否定もしていないと思う。「家に縛られて生きた」と思われがちな、昔の日本女性の代表としての花は、実はとても主体的な生き方をしていたのだと、自発的に家のために生きてきたのだということを肯定的に描いていると思う。しかしこの映画では、ずっと家に縛られて家族のために生きて来た花は、みじめで可哀想な感じをかなり与える。このあたりは、ちょっと違和感を感じてしまった。
また花の義理の弟:真谷浩策を丹波哲郎が演じていたが、彼のキャラクターは浮いてしまっている。また台詞も独特の棒読みで、方言も何のその。存在感が有りすぎる。
購入するのはもったいないかも、と思うが、機会があったら『紀ノ川』ファンには一見の価値がある映画である。 |