★新たなる闘い★【10】


初夏の童実野公園を一時強い風が吹きぬけた。
バトルシティ以来、数ヶ月ぶりに開催されたKC主催のデュエル大会。
現在、4つのフィールドでは予選が順調に行われ、正午までには、各フィールドから、1名ずつ計4名の 決勝トーナメント出場者が出揃う予定だった。
その後1時間の昼食タイムをはさんで、再び午後1時より、いよいよ決勝トーナメントが行われるのである。
昼休みには、KC製デュエリストグッズやその他の新製品の販売促進イベントが行われる予定になっている。
全ては社長である海馬の指図によるものだった。
既にデュエルディスクの売れ行きは順調だった。特に今この場所で購入すると、イベント価格が適用され、2割ほど安価で購入することが出来るとあって、 皆、この機会に購入を決心したようだった。
そして、デュエリスト同士が顔を合わせる度、そこではすぐにデュエルが繰り広げられるのであった。
既に公園中がデュエルフィールドと化していた。
その様子はまるでバトルシティを思い起こさせた。

そのような中、アスレチックフィールドでは城之内が、他の仲間とは少し離れたところに一人で立っている。
本田、杏子、静香は3人でお菓子を食べながら何やら楽しそうにお喋りをしている。

「いよいよだな…」 城之内が呟く。
そして、デュエルディスクにセットされた自分のデッキをもう一度手に取り、じっと見つめた。
一枚一枚のカードをに託された思い…パンサー・ウォリアー、ロケット戦士、ギア・フリード、スケープ・ゴート… どのカードも、これまで共に闘い抜いて来たオレの信じるカードたちだ…
次々とカードを確認する城之内の手がふと止まった。

”レッドアイズ”…

レッドアイズ…そうだ…このレッドアイズがなければ、オレは、今ここにこうしていなかったかもしれない…
王国では、オレに力を与えてくれた…そしていつもオレを勝利に導いてくれた…
…バトルシティの前に遊戯に預けてからは、レッドアイズはずっとオレの心の支えだった…
デッキにこのカードが入ってなくても、レッドアイズへの思いだけでオレは闘い続けることができた…
マリクに洗脳されちまったオレの…そしてそんなオレを助けようとした遊戯の命を救ってくれた…
オレがマリク戦で倒れてからは、死の淵をさまよっていたオレと…海馬と闘う遊戯の心と心を繋いでくれたんだぜ…

バトルシティが終わった後、オレは遊戯と真のデュエリスト対決をした…
レッドアイズを取り戻すため…そして…遊戯に勝つため…
…結局オレは負けちまったが…だがデュエルのあとあいつはこう言った…
『城之内君…このレッドアイズは今日からキミのものだ…
あの時、キミはこう言った…”真のデュエリストになるまで預かってくれ…” キミは今ではもう真のデュエリストだ…このレッドアイズはもうオレなんかじゃなく、城之内君のもとに帰りたがってるぜ… カードを通して伝わってくるんだ…そんなレッドアイズの思いが…」


…おい城之内…おい城之内!!
「…あん!?…ああ、本田か…わりぃわりぃ…ついボーっとしちまってよ…」
「おい、城之内ー、お前本当に大丈夫かぁ?何かさっきから焦点が定まってねーぜ?」
「うっせー!…ちょっと考えごとしてただけだっつーの!オレはなぁ、おめーのような単細胞とはちがうんだよ! 色々あんだよ、考えることがよぉ…」
「へーっ!知らなかったなぁ…おめーが、カードと食いもんのこと意外に頭を使うことがあるなんてよぉ… わーはっはっはっ…!」
「あんだとぉ!本田ぁ!てめー…」
「んもぉーやめなさいよ!二人とも!!こんなとこに来てまでケンカするの…」 杏子が横から仲裁に入る。
「お兄ちゃん、せっかく本田さんが心配してくれてるんだから、そんなこと言っちゃだめよ… お兄ちゃん、頑張ってね…あたしここで一生懸命応援してるから…」
「おう!オレはどんなことがあっても絶対にあきらめねぇ…それだけは今ここで誓えるぜ! …静香…例え、勝っても…負けてもな…!」
「うん!」

さて、アスレチックフィールドで闘うデュエリストたちには、他のステージに比べて、ほんの少しだが余計な試練が課せられていた。
アスレチック広場自体、その敷地全体が大掛かりな運動器具で構成されていたため、デュエルを行う場所には、 何と、大きな滑り台や縄ばしごなどを備えた、地上5mほどもある吊り橋の上が定められていたのである。
幅3m、距離にしてほんの10m位なのだが、足場が悪くかなり揺れが酷かった。
もちろん丈夫な造りになっているので、落ちる心配など全くないのだが、それは高所恐怖症の人間にとっては、 何ものにも変えがたい試練に他ならなかった。 何故なら、ただ黙って立ってるだけでも足がすくんでしまう上、さらにその場でデュエルをしなければならないのだから…
その点城之内は高い所でのデュエルは慣れている。何と言っても、高度1000m上空のバトルシップでデュエルしたことがあるのだから…
しかし、この特殊なデュエルステージ設定のために、途中で気分が悪くなったという理由で、すでに二人のデュエリストが棄権するという事態が起きていた。
2回戦目で城之内と対戦することになっていたデュエリストもその一人…よって城之内は今大会、誰とも1戦も交えることなく、 いきなり決勝トーナメント進出をかけてのデュエルを行うことになったのである。そしてその闘う相手とは…あのダイナソー竜崎である。

今回は竜崎もかつてのM&W大会準優勝者の意地を見せて、順調に勝ち進んできていた。
自慢の恐竜デッキはさらにパワーアップされ、その圧倒的な攻撃力の前に既に二人のデュエリストが敗退を喫していた。 正に、勢いに乗っているという感じだ。
既に二人は、高い吊り橋の両端に、向かい合って立っていた。
そしてその吊り橋の中間地点には審判である黒服が立っている。
二人は互いのデッキをシャッフルするために釣り橋の中心まで歩み寄った。
足元の左右の揺れに身を任せながら、竜崎が最初に口を開いた。
「ヘッ!…久しぶりやなー城之内!…お前と闘うんは、あの王国以来やなぁ…
バトルシティでは準決勝まで勝ち進んだそうやないか…
お前のようなド素人がここまでになったんも、もしかするとワイから奪ったレッドアイズのお蔭やったのかもしれんなぁ…なあ?城之内!
…そや!城之内…このデュエル、ワイとお前でアンティルールでせぇへんか?
賭けるカードは、お前がレッドアイズ、ワイがエビルナイトドラゴンや…ま、このエビルナイトドラゴンはワイにとって2枚目のもんやけどな…
1枚目はあの時、絽場にアンティで取られて…んまあ、そんなことどうでもええわぁ!
どや!城之内!面白いやろ!」

竜崎の延々と続く話を、カードをシャッフルする手を休めずに黙って聞いていた城之内は、ついに口を開いた。
「…断る…!」
「あん?…どうしてや!城之内!」
「竜崎…このレッドアイズは、今ではもうオレにとっての魂のカードだ…
…このカードはオレのデュエリストしての命みてーなもんだからよ…そう簡単に賭けの対象にはできねー っつうわけだ…」
「ヘッ…相変わらずお利口なこといいよって…本当はワイにレッドアイズのカードを奪い返されるんが怖いんやないのか?」
「あんだとぉ!!」
「違うんゆうならアンティに乗ったらどうや!…それとも所詮、お前は臆病者の負け犬っちゅうわけかぁー!?あーっはははは!」
…負け犬負け犬負け犬…カチン…!

「もー許せねえ!!…おう!やってやろーじゃねーかぁ!!負け犬呼ばわりされちゃあ、黙ってられねぇからな!
…だが、オレは負けるつもりはねぇぜ!負けてレアカード取られて後で吠え面かくなよ!」
「それはワイのセリフや!
…へッ!…ほんま…単純なやっちゃなぁ…これでレッドアイズは再びワイのもんや…」

「さあ!いつまでシャッフルしてるんだ!二人とも所定の位置についてさっさとデュエルを始めるんだ!」
審判の黒服が苛立たしそうに注意を促した。
無理もない…先ほどから、安定感のない吊り橋の中心に立ち、少し気分が悪くなっていたのだ。

「それでは、これよりアスレチックフィールド決勝戦を行う!」

「デュエル!!」二人が同時に叫ぶ。
先攻は城之内だ。

「オレのターン、ドロー!…オレは切り込み隊長を召喚!更に切り込み隊長の効果でコマンドナイト召喚!共に守備表示だ! ターンエンド!」
「ケッ…1ターン目からいきなりモンスターを2体召喚しおるとは…なかなかなるな城之内も…
だがワイの強力モンスターの前では、そんなんはみんな雑魚や…一気に蹴散らしたるで…!行くでぇ!
ドロー!ワイのカードはサファイアドラゴンや!そして 切り込み隊長に攻撃や!!」
全身からまばゆい光を放つドラゴンの一撃で、切り込み隊長は破壊された。

「くっ…だがコマンドナイトの守備力は1900…奴のサファイアドラゴンにだって、そう簡単にはやられねぇ…!」
「どや!城之内…ワイとお前には、所詮力の差ーちゅうもんがあるんやで!
ワイはさらにリバースカードをセットしてターン終了や…」

「…オレのターン!ドロー!…くっ…どの道、オレの手札にはサファイアドラゴンを倒せるカードはない…
オレはロケット戦士を召喚!攻撃表示だ!…ロケット戦士の攻撃力はコマンドナイトの効果を受けて1900… これで奴もそう簡単には攻撃してこれねぇはずだ…更にリバースカードを1枚セットしてターンエンド!」

「へッ…城之内…防戦一方やな…
なら、いかせてもらうで…ワイのターン、ドロー!ワイはサファイアドラゴンを生贄にして、エメラルド・ドラゴンを召喚! ロケット戦士に攻撃や!!」

「くっ…しかたねえ…リバースカードオープン!悪魔のサイコロ!」
「ケッ!無駄や!リバースカードオープン!ドラゴンの宝珠!!…ワイは手札を1枚捨てる…このカードの効果でエメラルド・ドラゴンに対するトラップの効果は無効や!」
「何!?…しまった!!」
エメラルド・ドラゴンの口から吐き出された激しい炎でロケット戦士は一瞬にして消え去った。

「どや、城之内…ワイはもう以前のワイとは違う…覚悟をきめるんやな!ワイは更にリバースカードを1枚セットしてターン終了や!」

「…チッ…マジやべーぜ…ここは何とか壁を作って奴の攻撃をしのぐしかねえ…
オレのターン、ドロー!…こ、このカードは…!…よし…このカードにかけるしかねぇ…
オレはリバースカードを2枚セットして、 ランドスターの剣士を守備表示!ターンエンドだ…」

「ワイのターン、ドロー!…そんな雑魚モンスターはワイの超強力ドラゴンの敵じゃないでぇ! ワイはまず手札から魔法カードを使うで…死者蘇生や!このカードでサファイア・ドラゴンを復活させるで!
更にグレイ・ウイング召喚!そして手札を1枚捨てる…城之内…この意味がわかるか?
これによってグレイ・ウイングはこのターンのバトルフェイズを2回行うこのができるんやで…
…まだまだやぁ!リバースカードオープン!竜の逆鱗!このカードの効果によってワイのフィールドのモンスターたちには、 メテオ・ストライクの効果が備わるんや!このターンでお前は終わりや…覚悟せいや!城之内!」

「まず、サファイアドラゴンで、ランドスターの剣士に攻撃や!!」
「くっ…リバースカード、オープン!サイクロン!このカードでドラゴンの宝珠を破壊するぜ!
そして更にもう1枚の伏せカードオープン!うずまき発動!!」

ゴゴゴゴゴゴ……

その瞬間、フィールド上に黒々とした巨大な渦が現れた。
そして、その混沌としたうずまきは、グルグルとフィールド全体をしだいに覆っていく。
「な、何なんや!…こ、この不気味なうずまきは…」
やがてうずまきが消え去った時、フィールド上からは、ランドズターの剣士とエメラルド・ドラゴンが姿を消していた。

「じょ、城之内!一体何をしたんや!」
「へっ!…そう驚くなよ、竜崎…そいつは、このカードの効果によるものだ…
罠カードうずまき…自分のライフを1000p払うことによって、オレが指定した相手フィールド上と自分フィールド上の表側表示モンスターを1体づつ破壊しゲームから除外する…
そして、このターンのバトルフェイズを強制終了させることができるんだ…オレが指定したモンスターはエメラルド・ドラゴンとランドスターの剣士だぜ!どうよ!竜崎!」

「何やとー!ランドスターはおとりだったっちゅーんか!くそー!…あともう一歩ちゅうところで… ワイはこのままターン終了や!」

「オレのターン、ドロー!…よし!…なあ、竜崎よ…お前の信じるカードが恐竜やドラゴンなら…オレが信じるモンスターは戦士だ…どんなに弱いモンスターでも、仲間の力を合わせれば 想像もつかないくらいの大きな力が得られるんだ…今からお前にそのことを証明してやるぜ…
オレは自分の魂を受け継ぐこの恐れを知らない戦士たちの力を信じる…
いくぜ!オレは手札よりマジックカードを発動!死者蘇生!このカードでロケット戦士を蘇生させる…そしてゴブリン突撃部隊を召喚!コマンドナイトも攻撃表示だ!
…そしてさらにこの魔法カードを使う…そのカードは…連合軍!!
全てのモンスターはコマンドナイトと連合軍の効果を受けてパワーアップするぜ!

≪コマンド・ナイト(2200)、ロケット戦士(2500)、ゴブリン(3300)≫

「いくぜ!竜崎!まずコマンドナイトでグレイ・ウイングを攻撃!そしてロケット戦士でサファイア・ドラゴンを攻撃!
更にゴブリン突撃部隊でプレイヤーにダイレクトアタックだ!!」

「ぐあああああああああああ…!!」
互いのパワーを得て、強力な力を備えた城之内の戦士族モンスターたちの圧倒的な攻撃の前についに竜崎のライフはたった1ターンで0になってしまったのだった。

「勝者、城之内克也!!」

城之内は橋の上に座り込んでいる竜崎の方に歩み寄った。
「くそぉっ!!…何でや!何でワイが負けたんや…!…くっ…このエビルナイトドラゴンまで、手放さなあかんとは…
ほら!城之内!アンティや… このカード持ってけや…!」
だが、城之内はそのカードをそっと掌で押し返した。
「竜崎…オレは最初からお前のカードを奪う気なんざないぜ…そのカードは今のお前にとって大切な魂のカードじゃねえか!
オレは…このオレ自身の魂のカード…レッドアイズをどうしても守りたかっただけだ…だから精一杯闘ったんだぜ…
だからよ…竜崎…お前も…今のお前にとっての魂のカード、エビルナイト・ドラゴンを大切にしろよ…」




さて、丁度その少し前のこと…
少し離れた丘の上では、今正に コーギが、闇獏良の投げたフリスビーを追いかけて丘を駆け下りようとしていた。
だが余りにあわてていたため、コーギは勢い余って斜面の窪みに足を取られ転んでしまった。
”キャワ〜〜ン!”
何回かコロコロと草の斜面を転げ落ちた後、ようやく 再び起き上がって辺りを見回したときにはもう、すでにフリスビーがどこに消えてしまったのかもわからなくなってしまっていた。
すっかり目を回してしまったコーギは、フラフラとした足取りで丘を降りていく。
しかし次の瞬間、フリスビー捜しの使命感に燃えるコーギの目に映ったものは、アスレチックフィールドで行われている城之内と竜崎のデュエルの様子だった。
いつも海馬邸で、瀬人のデュエルシーンを見なれているコーギは、ソリットヴィジョンのモンスターたちに異様な好奇心を抱いた。
あるいはあの中に、瀬人がいるかも知れないと思ったのかも知れない・・・
”…ワンワン!”
コーギは一声嬉しそうに吠えると、一目散にアスレチックフールドめがけて走り出した。

丘を駆け下り、芝生の上を走り、人々の足の間を器用に刷り抜け、一気にアスレチック広場の滑り台のはしごを駆け抜け、 吊り橋の上に登り詰めた。
だが、コーギがやっとの思いでその場所にたどり着いた時、目にしたものは、ソリットヴジョンのモンスターの姿ではなく、デュエルを終えた城之内たちと審判の姿だった。

「ワン!ワン!ウ〜〜!!ワンワン!!キャンキャン!!」
コーギは追いかける目的を失い、狂ったように橋の上を走りまわった。

「なっ!なんだ!この犬は!!…確か、この大会でのペットの持ち込みは禁止しているはず… このことがもし瀬人様に見つかったら…大変だぁ!… 誰かーっ!誰かその犬を捕まえろ〜〜っ!!」
黒服は我を忘れてコーギを追い始めた。
だが、そう簡単に捕まえられるものではない。
城之内や竜崎もすぐにコーギの存在に気がついた。
「何や!このちゃんこい犬は…待てやー!…むっ、無理やー!すばしっこくて、全然捕まえられへん!」
「お、おう…でも、待てよ…あの犬…前にどっかで…」
一緒になってコーギを追いかけていた城之内はふと頭をひねった。
城之内は、その小さな犬を以前一度だけ見たことがあった。…そう…闇遊戯と一緒に海馬邸に海馬の秘密を探りに行った時に…1度だけ…
「…そうだ!!思い出したぜ!あれは海馬の…!」
必死に自分を追いかけようとしている3人から、素早く逃げるのを、まるで楽しんでいるかのように、 コーギは吊り橋の上を行ったり来たりした。
そのようなことをしばらく続けるうち、城之内がいいことを思いついた。
ポケットの中からお菓子のカケラを取り出す…餌でコーギを釣ろうというのである。
いつも海馬に甘やかされているコーギは、人間を疑うということを知らず、誰でもすぐに信用してしまう性質だった。 そう、騙されやすいのである。
城之内の手の中にあるお菓子を見つけると、ピタリと動きを止め、シッポを振りながら城之内の方に近づいていった。
「ワン〜ワン!」
城之内の手からおいしそうにお菓子を食べている。
「城之内…お前…犬の扱い、上手いんやなぁ…さすが…犬同士や…」
竜崎がポツリと言う。
ヘトヘトになった黒服も額の汗を拭いながら、感心したようにその様子を見ている。
そして、そっと後ろからコーギを抱き上げた。
コーギは少し暴れたが、すぐにおとなしくなった。
「おい、その犬は確か…」
城之内は喉まで出かかった言葉を、何故かその時飲み込んだ。
「オレが今、ここで何か言ったってどうなるもんでもねぇ…それにあの犬と関わり合うとろくなことが起きねーからな… ここは、知らねーふりして様子を見るのが一番だぜ…へへっ…何か面白いことになりそうだぜ…」
そう心の中で呟いた。
城之内と竜崎は、コーギを連れて行く黒服の後ろ姿をぼんやりと見送っていた。

そして、丁度その頃…
瀬人は…ウオーターフィールドでの2回戦目のデュエルを終えた所だった。
結果はもちろん全勝。今現在、向かうところ敵なしと言った感じだ。
瀬人は、約20分後に行われる次の闘いに備え、デッキ調整をするため一度本部に戻るところだった。

美しい緑の芝生の上を、また一時、強い風が吹き抜けていく…
薄曇の空…爽やかな木々と草のにおい…
辺りには人影はなかった…
そして、何故かその場所だけ緩やかに時間が流れて行くようだった。
…瀬人はふと、海馬邸に残してきたコーギのことを思い出していた。
コーギ…今頃どうしているのか…本当なら土曜日のこの時間は、コーギを思いっきり遊んでやっている時間だ…
オレがフリスビーを投げてやると、ワンワンと嬉しそうにジャンプして軽々とキャッチする…
そしてオレに咥えたフリスビーを差し出して、もう一度、もう一度とせがむ…
フッ…全く可愛いやつだ…本当にコーギはかわいい…フフッ…
知らず知らずのうちに瀬人の口もともほころんでいく…

フフッ…フフ…ハハハハ…ワハハハハハハ…!
瀬人の頭の中は完全にコーギ溺愛モードに変換されていた…
脳裏に浮かんでいるのはコーギの姿…そしてワンワンという鳴き声…

ワンワン…ワンワン…ワンワン

…そう…丁度こんな風に小さく弾むような声…

ワンワン…ワンワン……

不思議だ…今こうしていても何故かコーギの声が聞こえてくるようだ…

ワンワン…!ワンワン!!……ん…?

瀬人は、ハッと我に返り、バッと後ろを振り返った。

その時、瀬人が見たものは、黒服に抱かれて本部に連れていかれようとしているコーギの姿だった。
…コーギ…!?
…何故…コーギがここに…!??
だが瀬人の示した反応よりもコーギが次の行動に移る方がはるかに早かった。
コーギはまたあの戦術を使ったのである。
まず思いっきり黒服の腕に噛みつく…そしてひるんだ隙に、その顔面に後ろ足で蹴りをいれて、素早く腕から掏り抜ける…
あの時執事に使ったコーギ究極の必殺技だ。
今までおとなしくしていた子犬から、突然の攻撃を受け、驚きと恐怖で黒服はバランスを崩し 地面に倒れた拍子に、ショックのあまり気を失ってしまった…

ワンワンワン!!…ワンワンワン!!!

「良くやったぞ!!コーギ!!…さすがだ…あの一瞬の隙を突いた攻撃パターン…
それでこそ、このオレのペットとして相応しい…!!」
コーギの闘いぶりに瀬人はすっかりご満悦だ。

大喜びで瀬人の方に駆けてくるコーギ…
瀬人はそれを身体をかがめて受け止める…
ようやく瀬人の腕の中に抱かれたコーギは、もうこれ以上ないくらいにうれしそうだ。
瀬人の頬をペロペロと何度も舐めている。
今はもう、どうやってここへ来たか…そしてこの後コーギをどうするのか… そんな愚問は二人の間に入り込む隙はなかった。
ただ、ただ、しばらくこのままこうしていたいと思うのだった。



さて…一見誰も見ていないと思われるこのような情景を、大抵は誰かがどこかで目撃しているものである。
二人が再会の喜びに浸っているその様子を 少し離れた東屋から、呆れたように見ている人物が一人…
「クククク……そう言うわけか…犬ねぇ…こりゃあ、とんでもねえものを見ちまったのかもしれねーなぁ…」
闇獏良はデュエルの合間に誰もいない静かなこの東屋でのんびり昼寝をしていたのだ。 だが先ほどのコーギの騒がしい鳴き声についに目を覚ましてしまったのである。
「あいつが弟のモクバ以外にあんな面見せるとはなぁ…こりゃ面白くなりそーだぜ…
ククク…犬かぁ…使えるネタは多い方がいい…早速利用させてもらうぜ…なあ、海馬よぉ…
ククク…ハハハハ…ヒャーハッハッハッハー…」



そのようなことには全く気がつく様子もなく、ひたすらじゃれ合う瀬人とコーギ…
そして次なる策略に暗躍を始める闇獏良…

デュエル大会、各フィールド予選は、いよいよ最終局面を迎えることになるのである…




新たなる闘い【10】終わり次のページへ



苦し紛れについに”うずまき”を採用してしまいました…
竜崎のデッキは何故かドラゴンデッキ
こんな社長はイヤ〜って方がいたらごめんなさい…
うちの社長はずっと多分こんな感じです…(笑)




社長室に戻る

Home