仮 縫
1963年1〜7月「週刊平凡」

日本にまだ高級洋裁店が一軒しかなかった頃の時代、その店で働く、清家隆子という若い女性の物語である。
洋裁に情熱を燃やし、熱心に仕事に取り組む隆子の姿が描かれた、爽やかな作品である。

感想
 ここまで一生懸命仕事をするって、近頃では珍しいかもしれないが、小気味好い。洋裁店という女ばかりの世界は、やはり足の引っ張り合いがあるのかな。
 隆子は挫折しても負けない。若いんだから、また頑張ればいいじゃない、という著者の声が聞こえそうである。隆子も、働き者で逞しい、有吉作品らしい女性像である。
 オートクチュールとかプレタポルテ等、洋装が日本に定着していく過程の雰囲気が感じられる作品でもある。
あらすじ
 清家隆子(せいけりゅうこ)は洋裁学院に在学中に、「オートクーチュール・パルファン」の松平ユキにスカウトされ、縫い子として働くようになる。高級注文服の製作・販売を手がける「パルファン」には数名の女性が勤務している。最初は、彼女たちの手際の良さや、学校で教わったこととは格段にレベルの違う高等な技術に圧倒されるが、たちまち持ち前の根性と気配りで頭角を現していく。
 松平ユキのアシスタントをしていた小式部クミが店を追いやられると、その後釜に隆子が座ることになった。張り切る隆子に、二人の男が接近する。ひとりはユキの弟らしい信彦、もうひとりはユキの恋人らしい相島。
 仕事に行き詰まりを感じ、勉強のためにとパリへ行くことを決めたユキから、隆子は店の留守を託される。ところが肝心の金がどこにもなく、給料等の支払に困り、隆子は相島から借金をすることになり、それがきっかけで肉体関係を持つようになる。一方、信彦は隆子に結婚を迫るが、無為徒食の彼を隆子は疎んじるようになる。
 孤軍奮闘して借金も返し、デパートでの初めてのショーを目前にしたある日、それまで連絡の取れなかったユキが突然、帰国する。清家隆子の名を売ろうとしたショーがユキに乗っ取られてしまい、挙句、店を追い出されてしまう。しかも相島までが姿を消す。
 ショックを受ける隆子だが挫けはしない。自分はまだ若く、仮縫いが済んだだけで、人生はこれからと思い直すのであった。
本文より抜粋
私はやっと仮縫が終ったばかりなのだ。これから、この経験にもとづいて、しっかり補正をするのだ。それから念入りな仮縫をもう一つして、要所要所の補正をして、本縫いして仕上げるまで・・・隆子の人生には何が起こるだろう。
隆子は、ほんの少し疲れていたけれども、そんなものは今晩と明日とを寝て過ごせば、ケロリと癒ってしまうにきまっていた。それは誰よりも隆子自身が知っている。家に帰って、すぐ眠ろうと思いつくと、ようやく気が楽になってきた。
収録書籍*〜*〜*
『仮縫』集英社・集英社文庫
参考情報*〜*〜*
「華麗なる闘い」鑑賞の記録

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