| 『ニューギニア高地社会』チンブー人よ、いずこへ |
畑中幸子著 中公文庫
紹介文より
ニューギニア高地人の社会は今、原始から近代へと急速に変貌しつつある。村の共同体と限られた部族間の交流の中に生きる愛すべきチンブー人よ、いずこへ行く----。オセアニア研究の第一人者による興味尽きない生活記。 |
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| ■ 感想 |
『女二人のニューギニア』に登場する畑中さんの作品であるルポルタージュ。MAYUMIさんにお借りして読むことができた。(ありがとうございます!)
ここで紹介される地域は、有吉さんが訪れた場所ではないのが残念であるが、興味深い読み物であった。ただ畑中さんは作家ではなく学者さんなので、とてつもなく可笑しい『女二人・・・』と比較してはならない。ちょっと堅いが、難しい本ではない。1970年頃の、ニューギニア高地人の社会が近代化に向かう様子が書かれている。ある意味、文明に毒されて行く過程でもあるので、古くても考えさせられるものがあった。以下に印象に残った特におもしろい部分を紹介したい。作品自体は可笑しな部分ばかりではないので、念のため。 |
| ■ ニューギニアの人々と豚についての関わりがおもしろい部分の抜粋 |
わたしがコゲに着いたのは土曜日、翌朝さっそく日曜礼拝に出た。神父の言ったとおりだ。人びとは溢れていた。教会の軒下も坐りこんだ人びとで立錐の余地もない。まともな衣類をまとっているものは数えるほどしかいない。・・・・・教会に割り込んで入っていったところ、ムーンと鼻につくにおい。からだを洗う習慣のない原住民の体臭と、暖炉のたき火から出る煙のにおいがまざって、独特のにおいがする。・・・・・子供の泣き声、子供のいたずらを叱る母親の怒声、若い娘たちのおしゃべりで神父の祈りの言葉は聞き取れない。ときおり仔豚のむずかる鳴き声が騒音の中から聞きとれる。見ればペットの仔犬でも抱くように仔豚を抱いている女がかなりいる。
わたしは二人に呼び名をつけることにした。ブウには「わたしの国では“ブウ”というとブタか豚の鳴き声を連想してしまう」と、そこまで言うか言い終わらぬうちにブウは目を輝かして「本当ですか」と喜んだ。文化の違いである。メラネシア社会、特にニューギニア高地では豚は立派な財産である。「それでわたしはあんたのことをブウ子と呼んでいいかしら」と承諾を取った。「子」というのは女の子の名前につくと、例としてわたしの名前についていることも説明する。「わたしにも」とニンが催促する。・・・・・彼女は「ニン子」を期待したようであった。「ニン」というのは日本語で何かと聞く。「ニン」は「ひと」という意味だと答える。ニンはやにわに言った。「わたしは人間であんたは豚だ」とブウに向かって言った。ブウは怒るはずがない。にこにこしている。ニンには呼びやすいこともあって「ニーナ」という名前で呼ぶことにした。
豚は利口な動物である。飼い主に引っぱられながらも自分の運命を悟ってか、「ブウ、ブウ」とうるさく鳴きたて、前足をふんばって前に進もうとしない。・・・・・後ろの方で一人の女が涙をふきながらじっと光景を見つめている。たぶんこの女が豚を育てていたにちがいない。仔豚は生まれると親の乳房を各自決めてしまう。だいたい一匹か二匹あぶれる。人間の子供に母乳が十分あるときのことであるが、あぶれた仔豚を人間がしばらくの間授乳するということがしばしばあった。人間の赤ん坊とお乳を分けるのである。これは高地でよく見られたことであるが、女性の左右の乳房の大きさに差違のあるのは仔豚への授乳にきせられている。してみれば豚がわが子と同じほど可愛いのはわかるような気がする。 |
| ■ 笑っちゃいけないけど可笑しな裁判の様子の抜粋 |
治安判事は英語とピジン・イングリッシュを話すが、現地語を理解できない。証人は現地語しか分からないので、通訳を雇わなくてはならない。
治安判事:「証人の妻はシングシング(踊りのパーティ)に出ていましたか?」
通訳(ピジン):「長い間シングシングをやっていた時、彼の妻は皆と一緒にいましたか?」
通訳から証人へ(現地語)「あなたの妻はシングシングに出ていましたか?」
証人:「私の妻は何時も言うことを聞かない上、非協力的です」
通訳:「わかりました。しかし裁判で彼女がシングシングの時にいたかどうか聞いているのです」
証人:「彼女はしばしば私を侮辱しています」
通訳:「わかりました、ところで彼女はシングシングのときいたのですか?」
証人:「彼女は怠け者だ。私は始終、自分で食事の用意をしなければなりません」
通訳:「あなたはそれについて後から法廷で話すことができます。彼女はシングシングにいたのですか?」
証人:「実際、女というものは得体の知れないもの、うわついていて気まぐれです」
通訳:「ちょっと待った!どうか私に質問の答えをして下さい」
証人:「彼女は支払った婚資だけの値打ちはなかった」
通訳:「聞いて下さい。私にとってこのままでは、もうすぐ面倒なことになる。彼女はシングシングの時いたのですか?それを答えて下さい」
証人:「ある人が非常に望まれて結婚します。しかし往々にしてそれは非常に悲しい経験になりますよ」
通訳:「もし私がこの事件で通訳としての地位を失うならば、裁判が済んだ時、私はお前をただではおかないぞ!彼女がシングシングにいたかどうか聞いているのだ!」
証人:「どのシングシングのことですか?」
通訳:「お前はそこにいたが、サムが彼女と水を飲みに行った時のシングシングを知っているね?」
証人:「勿論、彼女はそこにいました。一体、どうして問題がおきてきたのですか?」
通訳:「はい」
通訳(ピジン)「はい」 |