幼い頃から身近にいる小さな生き物達に強い関心を示していたのですが、カエル以外は両生爬虫類は5歳の頃から最近まで飼育していた、いわゆるみどりがめと庭先でおもちゃにしていたニホンカナヘビそれとときどき出会うヘビ位しかケージに収容したことはなかったのです。
中学生の時に仲の良い友人が「国産淡水魚」の魅力を教えてくれたことによって、興味の方向はほぼその方向へ向いたまま、大学もそのための勉強をしました。
実は私は神奈川県出身なのですが、宮崎県の大学に進学しそのまま宮崎の自然環境に惚れて宮崎に住み始めたのです。
ある日、私は本屋でふと一冊の爬虫類図鑑と出会いました。そこには爬虫類を飼育する楽しさが書いており、次第に私の関心は両生爬虫類へと移行していきました。しかし、依然水と関係のある種類に特に関心が高く有尾類の飼育に関心を持ったのです。
そして、私はある図鑑を入手する事によって、この一文を目にしてしまったのです。
「熊本・鹿児島・宮崎県にまたがる九州脊梁山地にのみ分布。・・・日本で最も美しい種と言われている。」
ベッコウサンショウウオへの片思いはここから始まったのです...
自分の住んでいる宮崎県に国産有尾類でもっとも美しい種がいるなんて、こんなにすばらしいことはありません。これは何とか探し出して、その姿を拝むしかないでしょう。
ふるさとを捨てて九州に住んだのも、きっとこのためなんだろう、と勝手に思いこみました。
標高500mのラインを道路地図に赤で線を引き、ひたすら車を走らせます。
沢を見つけては足を踏み入れました。
地元の方にも話を伺いました。
車高が低い車に乗っているので轍で車のおなかをこすることもありました。坂の入り口でフロントスポイラーがもげたこともありました。
それでも、ベッコウサンショウウオはおろか県内最優占種であるブチサンショウウオにも出会うことはかないませんでした。
しかし、1998年になってからかなり信憑性の高い生息状況を入手できました。県内の北西部のとある山の標高1000mを越える沢にいるという情報です。
まず、4月に行きました。
サンショウウオを観察するには時期がすべてです。産卵期で水場に来た個体以外は偶然でしか見られません。ですから、産卵期に観察するのが最良なのです。
ベッコウサンショウウオの産卵期は一般には5月と言われてますが4月くらいから始まることもあるのでとりあえず下見をかねて行きました。
さすがに南国宮崎といえども1000mを越えると4月でも相当冷えます。水も数分と手を入れておけないほどの冷たさです。
もちろん、はじめからそううまくいくわけはありません。水中から、伏流水。近くの斜面までくまなく探し(たつもり)ましたがサンショウウオの姿を見ることはできませんでした。
次はいよいよ待望の5月下旬に行きました。産卵期の最盛期と思われますので来たいができ...たはずなのですが、当日は大雨。
それでも、あきらめきれずにポイントに行きどうやら雨が小降りになったので探索に向かいましたが、水量がハンパでなく、全くサンショウウオ探索などできない状態。今回もあきらめです。
しかし、サンショウウオが生息しているような環境は自然度が高いと言うことでしょうか、雨が上がり日差しもまぶしくなってきた帰り道のど真ん中でアオダイショウが交尾中!!素早く車を降りて両手で2匹同時捕獲という神業のようなことをやってのけてゲット。この後メスは8月に2卵を産卵。現在も親子共々元気にしています。
今年はもうベッコウに会えないかと思っていたのですが8月にたまたま時間が空いたので、再々挑戦をしました。
朝早いうちから家を出てゆっくりと山道を車で走ります。
夏の早朝の山道はヘビが出てくることも多いのでそれにも期待しました。
思った通り若いアオダイショウが出現。車から降りて捕獲。ゆっくり観察した後リリース。「もう、道路に出てくるなよお〜。」
朝早いとは言ってもそこは夏休み中、車もちらほらと走っています。と、目の前に個人的に大嫌いな、大きな某RV車が。これがまた、ゆっくり走ります。自分もゆっくりと走っていたくせに次第に頭に血がのぼってきます。前の車との車間距離を縮めてしまったのです。これではたとえヘビが道にいても発見が遅れます。
気づいたときには前車の下からとぐろを巻いた赤っぽいヘビを発見しました。何とか自分の車の車輪の間に通すようにしたつもりでした。
車を止めて通り過ぎたヘビのところへ走っていくと...
不覚...
そこにはまだ、若いジムグリがひき殺されたばかりの状態で虫の息でけいれんしていました...
普段、自然を守ろうだの、生き物を大切にだの言っている本人がこのざまです。心からの衷心を込めて、そして二度とこのようなことが無いようにと、心を戒めてジムグリを埋葬しました。合掌。
さて、心にもやが掛かったような状態でしたがそれでも目的地に到着。
山道を徒歩でポイントに向かいます。山道の斜面は暖かく心地よいのか、普段は目にも留まらぬ早さで逃げていくニホントカゲが日光浴をしています。
沢に到着。水量は多からず少なからず。早速、足場のよいところに降ります。
水面を見ます。きらきらと太陽の光を反射しながらもわずか数センチの水深の下の川底が見えます。何もいません。当然でしょう。
仕方なく近くの石をどかします。あまり、岩石には詳しくないのですが白っぽい石が多いので花崗岩でしょう。いくつどかしたときでしょう。我が目を疑いました。石の下には...
サンショウウオです!!しかも、ついさっき上陸しました、といわんばかりの幼い個体です。ただし、ベッコウといわれれば黄色い斑紋はあるように見えますし、ブチといわれればそうも見えます。
しかし、流水性のサンショウウオであることは間違いありません。(心の中では「ブチ似のベッコウ」ということにしましたが...)
気が狂ったように写真を撮りまくります。記念すべきこの個体は慎重に水苔と一緒にパッキングします。
気をよくしてもう少し上流に足を運びます。細い流れの石をどかすと、小さな影が素早く動きます。その動いた先の石を見失わずそっとその石をどけるとまだ、外鰓の残る幼生がじっとしていました。熱帯魚用の網に追い込んで捕らえます。
もちろん、幼生の時点で種類を決定できるほどの能力はありませんがこれも慎重にパッキング。似たようなところを探すとまたいました!
極意、つかんだりっ!!
あっという間に5匹を採集。もちろん必要以上の個体は持っていくようなことはしません。30分ほど採集し岩に腰掛け一服です。
まさに至福の時です。
こうして私はついに夢にまで見た、日本一の美麗種そして「おらが村」のサンショウウオ・ベッコウサンショウウオとの出会いを果たしたのでした。
残念ながら、このときの5個体のうち現在(1999.3.29)生きているのは2個体だけです。
流水性種のサンショウウオの飼育は難しいと聞いていましたがその通りでした。しかし、それでもようやく現在生きている個体も餌付き徐々にではありますが止水性のサンショウウオとは明らかに異なる姿に成長してきています。
ベッコウかブチか、それは私にとっては二の次なのです。「三顧の礼」を尽くしてやっと会えた彼らの正体は数年後に私のケージ内で明らかになるはずなのですから...
おわり