山原旅行記

1998年3月についに念願かなって沖縄本島へフィールディングの機会を得ることができました。
国産の爬虫類や両生類に強い関心を持つ私にとって南西諸島でのフィールディングは夢でした。この世界に足を踏み込んだのがごく最近でしたので、とにかく自分の足と目で自然を感じたい、と焦りを感じていました。
実は私の義弟が琉球大学の学生でこの年の3月に卒業でしたので、家内の家族が卒業式に行く話が出ていたのです。そこで私は運転手等の役目をすることを条件に同行し、そのついでに一日だけヤンバルに行くことを計画しました。
ところがここで問題が生じました。何よりも私は南西諸島に行くこと自体が初めてです。それをいきなりフィールディングなんてできるのでしょうか?情けない話ではありますが南西諸島にはあのハブがいます。万一咬まれでもしたら...と本気で悩みました。
ところが幸い私が参加しているMLで南西諸島のフィールディングに詳しい方がいらっしゃいましたので、アドバイスをいただき万全の準備をしてその日を迎えました。

宮崎空港で家内の家族と一緒に一人だけ妙に重装備をして浮いている男がいました。それが私です。周りの奇異な目と家内の白い目を気にしながら飛行機に乗り込んだ私は一人わくわくしながら地形図を見つめていました。
「う〜む。いろいろ行きたいがたった一日だし。まだ夜のフィールディングは無理だし、どうするか...」などと一人にやにやしながらあっという間に飛行機は本当上空へ。残念ながら天候は小雨混じりでしたが、初めてみる沖縄の海は今まで見たことのない青さで期待は感動に変わりました。
空港で義弟の出迎えを受け、早速運転手に早変わりです。運転を続けても目線は常に道路脇の街路樹ややぶに釘づけです。
「ああ、あのやぶの中にまだ俺が見たことのない生き物がいるのかも...」
1日目はそのまま、本島南部の観光へ。玉泉洞。ひめゆりの塔。平和記念公園(だったっけ?)へ。しかしどこへ行っても目は足下ややぶへ。
その夜はカラフルな魚の刺身と豚肉料理、そして泡盛に舌鼓をうちつつ、いわゆる普通の沖縄観光を堪能したのでした。

いよいよ、私一人が自由に行動できる日がやってきました。しかし、残念ながら天気は小雨混じり。いや、しかし雨に対する準備もしてきたはずだ!とめげずに家族と車に乗り込み高速道路へ。 許田ICで高速を降り名護市内でかねてより予約していたレンタカーを借りました。最も安いクラスなので軽自動車。フィールディングに大切なのは自分の足腰、車は動けばいい!
地形図とロードマップを見ながら車で北上。いよいよ、ヤンバルへの入り口に到着しました。
狙いを付けていた林道の入り口に車を止めついに記念すべき第一歩を踏み出すと...さ、寒いーーー!!宮崎よりも寒い!話が違うぞおーーーー!
しかし、ここであきらめてもしょうがない。完全装備で林道を奥へ奥へと行きました。大きなサトイモ科の植物の葉を見て「ああ、ここはヤンバルなんだなあ」と改めて実感。
一人、林道を歩いているうちに「あ、俺今自然に溶け込んでる...」なんて感覚に陥り、なんだかうれしくなりました。
しかし、目的は爬虫両生類との出会い、目を皿のようにして見回しますが、いかんせんこの寒さ。いけねえ、息まで白くなってきやがった。どこを見ても動物の姿無し!!
もはや、敗北を宣言。岩に張り付いている小さなモウセンゴケを見て、「まあ、これでも写真を撮っておくか」と気弱になってきました。そのうち小さな沢に到着。水を覗いてみると小さなエビがいるだけです。 意を決して川の中へ足を踏み入れました。以前は川魚を趣味としていた私は岩を一個一個めくりはじめました。と、不意に何か大きな肉塊が水中から飛び出してきました。その行き先にそおっと近づいてみると、そこには中型のカエルが鎮座していました。
ナミエガエルでした。ようやく、ヤンバルでしか見られない生き物を見れたうれしさと天然記念物であるために手も触れられないもどかしさの中、未熟な写真を撮影しました。ナミエガエルは比較的多いらしく石をめくると多く発見できました。

沢を横切りさらに奥の林道へ進みました。節足動物も目的になっている私にとって湿度の高いところで石をめくるのはとても大切なチェックです。そしていくつか目の石をひっくり返したときです。目を疑う生き物が横たわっていました。妙にごつごつした体つき。これはもしや... イボイモリです!
残念ながらこれもまた天然記念物。丁重にそのご尊顔を撮影させていただき、慎重に石を元に戻しました。

天候は回復せずもはや爬虫類が活動できる温度ではないと判断。それ以上の林内への立ち入りをあきらめましたが、少しは気が紛れました。その後、別の草原では水場が遠いにも関わらず多くのシリケンイモリを観察。ロードキルも多く複雑な気持ちでヤンバルを後にしました。
初めてのヤンバルは惨憺たる結果でしたが「はじめからうまくいくはず無いか」と考え自分を納得させました。

翌日の予定は義弟の卒業式に出席した後、午後の便で帰宮です。朝のうちに国際通りの市場で買い物、そこでイラブー(エラブウミヘビ)の干物を見て「これも爬虫類だよな」とちょっと自暴自棄に。
いよいよ、卒業式の会場の琉球大学キャンパスへ。広い。農学部があるために結構草むらなどもありいい感じ。構内には「ハブ注意」なんていかにも琉大っぽい看板もあり「もしかしたら...」と未練。
思い切って家内に「卒業式の間、駐車場の周りで遊どく」と子供のようなことを言い、草むらを探索。1haも草を踏み倒した頃でしょうか、草むらにうごめく緑色の影を発見!もしやあれは...
高貴なる琉球美人!アオカナヘビです!
瞬間的に跳躍し全身で襲いかかります!採れたか!?手応えはあったはず!しかし悲しいかな齢31では自ずと限界があるのか、はたまた昨日の空振り疲れかむなしく手は空を切っていました。
しかし、いるとわかれば俄然やる気も出てきます。さらに二反ほどの草を踏み分け、卒業式に参加する晴れ着の女子大生の白い目も、おろし立てのスーツに身を包んだ学生の後ろ指も気にかけず、手は草負けだらけ。ついに先ほどの個体を発見。先ほどの轍を踏まぬよう今度は両手で慎重に包み込みます。

ゲット...

こうして私の記念すべき南西諸島初フィールディングはたった一匹のアオカナヘビを手に幕を閉じたのでした。
満足。

私は帰りの飛行機はぐっすりと眠っていました。

難病「南西諸島行きたい病」に冒されたことも知らずに....

おわり

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