宮崎空港で家内の家族と一緒に一人だけ妙に重装備をして浮いている男がいました。それが私です。周りの奇異な目と家内の白い目を気にしながら飛行機に乗り込んだ私は一人わくわくしながら地形図を見つめていました。
「う〜む。いろいろ行きたいがたった一日だし。まだ夜のフィールディングは無理だし、どうするか...」などと一人にやにやしながらあっという間に飛行機は本当上空へ。残念ながら天候は小雨混じりでしたが、初めてみる沖縄の海は今まで見たことのない青さで期待は感動に変わりました。
空港で義弟の出迎えを受け、早速運転手に早変わりです。運転を続けても目線は常に道路脇の街路樹ややぶに釘づけです。
「ああ、あのやぶの中にまだ俺が見たことのない生き物がいるのかも...」
1日目はそのまま、本島南部の観光へ。玉泉洞。ひめゆりの塔。平和記念公園(だったっけ?)へ。しかしどこへ行っても目は足下ややぶへ。
その夜はカラフルな魚の刺身と豚肉料理、そして泡盛に舌鼓をうちつつ、いわゆる普通の沖縄観光を堪能したのでした。
いよいよ、私一人が自由に行動できる日がやってきました。しかし、残念ながら天気は小雨混じり。いや、しかし雨に対する準備もしてきたはずだ!とめげずに家族と車に乗り込み高速道路へ。
許田ICで高速を降り名護市内でかねてより予約していたレンタカーを借りました。最も安いクラスなので軽自動車。フィールディングに大切なのは自分の足腰、車は動けばいい!
地形図とロードマップを見ながら車で北上。いよいよ、ヤンバルへの入り口に到着しました。
狙いを付けていた林道の入り口に車を止めついに記念すべき第一歩を踏み出すと...さ、寒いーーー!!宮崎よりも寒い!話が違うぞおーーーー!
しかし、ここであきらめてもしょうがない。完全装備で林道を奥へ奥へと行きました。大きなサトイモ科の植物の葉を見て「ああ、ここはヤンバルなんだなあ」と改めて実感。
一人、林道を歩いているうちに「あ、俺今自然に溶け込んでる...」なんて感覚に陥り、なんだかうれしくなりました。
しかし、目的は爬虫両生類との出会い、目を皿のようにして見回しますが、いかんせんこの寒さ。いけねえ、息まで白くなってきやがった。どこを見ても動物の姿無し!!
もはや、敗北を宣言。岩に張り付いている小さなモウセンゴケを見て、「まあ、これでも写真を撮っておくか」と気弱になってきました。そのうち小さな沢に到着。水を覗いてみると小さなエビがいるだけです。
意を決して川の中へ足を踏み入れました。以前は川魚を趣味としていた私は岩を一個一個めくりはじめました。と、不意に何か大きな肉塊が水中から飛び出してきました。その行き先にそおっと近づいてみると、そこには中型のカエルが鎮座していました。
ナミエガエルでした。ようやく、ヤンバルでしか見られない生き物を見れたうれしさと天然記念物であるために手も触れられないもどかしさの中、未熟な写真を撮影しました。ナミエガエルは比較的多いらしく石をめくると多く発見できました。
沢を横切りさらに奥の林道へ進みました。節足動物も目的になっている私にとって湿度の高いところで石をめくるのはとても大切なチェックです。そしていくつか目の石をひっくり返したときです。目を疑う生き物が横たわっていました。妙にごつごつした体つき。これはもしや...
イボイモリです!
残念ながらこれもまた天然記念物。丁重にそのご尊顔を撮影させていただき、慎重に石を元に戻しました。
天候は回復せずもはや爬虫類が活動できる温度ではないと判断。それ以上の林内への立ち入りをあきらめましたが、少しは気が紛れました。その後、別の草原では水場が遠いにも関わらず多くのシリケンイモリを観察。ロードキルも多く複雑な気持ちでヤンバルを後にしました。
初めてのヤンバルは惨憺たる結果でしたが「はじめからうまくいくはず無いか」と考え自分を納得させました。
翌日の予定は義弟の卒業式に出席した後、午後の便で帰宮です。朝のうちに国際通りの市場で買い物、そこでイラブー(エラブウミヘビ)
の干物を見て「これも爬虫類だよな」とちょっと自暴自棄に。
ゲット...
こうして私の記念すべき南西諸島初フィールディングはたった一匹のアオカナヘビを手に幕を閉じたのでした。
満足。
私は帰りの飛行機はぐっすりと眠っていました。
難病「南西諸島行きたい病」に冒されたことも知らずに....
おわり