西表島旅行記その1

ついに、とでも言ったらいいのでしょうか。

1999年9月。私のような、南西諸島フィールディング愛好者にとってある意味「究極」のフィールド、「聖地」「秘境」西表島へのフィールディングが実現しました。

今回は、3月の石垣島で見ることができなかった種類や採集できなかった種類に対して「リベンジ」することが最大の目的でした。
石垣で出会うことが叶わなかった種類は

「西表島だったら見られると思いますよ。そのくらい密度が濃いですから」

という寺田考紀さんのお言葉であっけなく 西表島へ行くことを決心させたのです。

また、今回の西表で南西諸島の主な島はすべてフィールディングしたことになり、今回のターゲットと出会うことができたならば私の南西諸島フィールディングも一段落すると考え、今までの「まとめ」としての意識を持って決行したのです。


1日目

いつものように仕事をさぼって、いよいよ鹿児島空港へ向かって車を発車...以下略。

飛行機に乗ると、眼下に広がる沖縄の海が...以下略。

西表島へは、石垣島まで飛行機で行き、そこから船で行くより方法がありません。熱帯低気圧の接近のため石垣島は強い雨で我々を迎えてくれました。
そんな雨の中でしたが、西表島大原港行きの船に乗り込みました。
石垣〜西表への船は快適そのもの。荒天にも関わらず海の色は私の知っているそれと何ら変わりはありません。そしていよいよ西表島が見えてきました。

鬱蒼と生い茂るマングローブ。得体の知れない生き物の咆吼。昼なお暗い密林...
という私のイメージはまんまと覆されました。立派な港にはちょっとした公園と管理事務所があり「グラスボート」乗り場も、我々を普通の観光客のように迎えてくれました。
そういえば最近「エコツアー」なる言葉で観光地になっているんでした。
それでも、あらかじめ予約しておいたレンタカーはキーをつけたまま港に置いてあるし、のんびりしたものです。

こうして我々の新たなる出会いを求めた3泊4日の西表島フィールディングは始まったのでした。

まず始めに私たちを出迎えてくれたのは、途中腹ごしらえのために立ち寄った商店の自動販売機近くに隠れていたヤモリ。そう、南西諸島ではお約束です。ホオグロヤモリでした。
しかし、一年前の私とは違います。ホオグロは家で孵化幼体までいます。この際、挨拶だけ済ませて、さようなら〜。ちなみに、この島でもホオグロヤモリはどこにでも見られました。

今回の目的のヤモリはただ一種。帰化種オガサワラヤモリです。この変わり種ヤモリのために情報もばっちり用意してます。ま、これだけの情報があれば大丈夫でしょう。ところが...

いない...いない!いない!!いない!!!

どこを見てもホオグロヤモリばかりです。しかし、ヤモリ探しは上を見る作業。いつまでもヤモリのかかずらわってはいられません。

途中、水田近くを通るとすっかり、日が落ちた時間だからか、それとも近づいている熱帯低気圧に期待してか、ヤエヤマハラブチガエルを始めとした多くのカエルの声が聞こえてきました。 その声に惹かれるようにして車を止めて水田付近を探索すると、何が彼(女)の身に起きたのかミナミイシガメ(ヤエヤマイシガメ)の幼ガメの死体が落ちていました。南無。

いよいよ日も暮れて、あたりは真っ暗になりました。

「そろそろ、ヘビを探しましょうか。」

と寺田さん。
西表と言えばヘビの宝庫。今回のメインイベントです。

西表には「サキシマ」の名を冠するヘビとして
ハブ、マダラ、スジオ、バイカダ、アオヘビ。
「ヤエヤマ」を冠する
ヒバァ、タカチホ。
そして「イワサキ」の名を冠する
セダカヘビ、ワモンベニヘビ。
の計9種類がいます。その中でも、バイカダ、セダカヘビ、ワモンベニヘビ、(アオヘビ)の3(4)種は発見例も少なく「希少ヘビ」のステイタスを欲しいままにしています。<大げさ

あ、ブラーミニメクラヘビを忘れてた...10種類か。

何にしても、秘境西表でこれらのヘビと出会うための行動をこれからとろうというのですから、期待と不安が入り交じります。

さぁ、いよいよジャングルの中でヤマビルと戦いながらヘビを探すぞぉ!!乾電池もバッチリだ!!!
と、意気込んでいる私を後目に寺田さんは余裕です。あれれ。

「西表では森の中に入るよりも、夜の道路を車で走って、道路に出てきたヘビを探す方が効率的なんですよ。」

気合い入れて損した...

まさかそんな...と思う私を助手席に乗せて寺田さんはゆっくりと車を走らせます。と、10分もしないうちに

「あ、いた。」

交通量が少ないために発見次第車を止めてヘビのところに駆け寄ります。

おお、半年ぶり。サキシマハブでした。実に道路でのんびりとしていましたので慎重にフックで引っかけて道路の脇の森に投げ込みます。

さらに、道路を走らせるとこれもなじみの顔。ハブ以上に道路での危機感が0。サキシママダラです。臭さは相変わらずですが、かわいさも相変わらずです。

この後も、サキシマハブとサキシママダラを多く路上で発見しましたが、何回かに一回の割合でヘビ達の路上轢死体も目撃し、複雑な心境にもなりました。しかし、これだけ多くのヘビが出ているのだから、と期待感も大きいです。

そろそろ、他のヘビも見たいなぁ、なんて思っていた矢先だったでしょうか。

「あっ!!」

いつもと違う寺田さんの反応に私にも緊張感が走ります。駆け寄って懐中電灯に照らされたその先には、妙に細長いヘビの姿が...
この姿は石垣島で見覚えがあります。サキシマバイカダでした。最初の夜から「希少ヘビ」に出会えるとは、なんて幸運なんでしょう。

私も気合いを入れるべく、メガネを装着し動体視力を数レベルアップさせて路上を見つめれば、なんと私の視界にもサキシマバイカダの姿が目に入りました。
さすが西表。

途中、オガサワラヤモリとの出会いを求めて夜の公民館に侵入(?)します。しかし、ここでも

ホオグロ。ホオグロ!ホオグロ!!

そんな中、「どんな目の作りしてんの?」とでも言いたくなってしまう寺田さんが裏の林でヤエヤマアオガエルを発見。オキナワアオガエルシュレーゲルアオガエルとは違って少し優しげな顔つきが印象的です。

さすがに、この夜はバイカダ二匹との出会いによる満足感と前日の夜更かし(私)と二日酔い(寺田さん)のため、フィールディング終了。公園のベンチで二人そろって野宿しました。

明日はトカゲと昼行性のヘビをターゲットにした日中のフィールディングです。晴天に恵まれることを神様に祈りながら、「風雨が吹き込んでいる」ベンチで横になりました。
さすが西表。


2日目(昼の部)

「むううう、暑い...」

気がつくと朝日に照らされて汗を流しながら寝ている自分がいました。

おお、快晴じゃん。

これはフィールド日和です。ゆっくりと一服してから、さっそく林道へ向かいます。<顔くらい洗え>私

林道に入り徒歩で探索します。やや日当たりが良すぎるのが気になりますが雨が降るよりはずっとましです。
と、この狭い林道を後ろから車がやってきました。平日の午前中から林道をほっつき歩いている我々を怪訝そうに見ながら運転手は我々を抜いていきます。
しばらくすると、今の車が今度は対向してきました。何か、この奥に用でもあったのでしょう。特に気にせずに我々は歩みを早めます。と、前方に何かあります。近づいてみると、そこには何と...

国の天然記念物(ヤエヤマ)セマルハコガメの轢死体が!!

しかもまだ新しい。推測でしかありませんが、先ほどの車に轢かれたのでしょうか。辛い瞬間でした。

気を取り直して、ふ、と横の茂みを見ると、何か動くものが。

おお〜!リベンジのチャンス!!

そうです、前回の石垣島ではたったの1個体しか見られず、あまつさえ尻尾までつかんでおきながら逃げられてしまった、あのKing of Japanese Grass Lizardサキシマカナヘビです!

前回の教訓を生かし、前回以上の慎重さで勝負を挑みます。

「この前は、時間も午後で奴は逃げるのに十分な体力を持っていただろう。しかも今回は足場も良いし、距離も近い。よし、いける!!」

なのに、なぜ?なぜ?なぜ?

むなしくも私の手の中にはさっきまで彼(女)が乗っていた草しかつかんでいなかったのです。ああ無情。

しかも、この後せっかく寺田さんが見つけてくれた、超楽勝な場所にいる個体さえも取り逃がすという大失態まで演じてしまいました。
一般に、カナヘビは一度移動しても同じところに戻って来るという説を信じて待つこと30分。さっき取り逃がした個体でしょうか。のこのこと再び私の前に姿を現しました。

人生33年。今までに経験がないくらいの集中力を発揮します。どうやら、あくまで印象でしかないのですがサキシマカナヘビは他のカナヘビ以上の逃げ足の速さを持っているように感じます。<
しかし、それならばこちらは奴らより速く手を動かせばいいだけのこと。電光石火のごとく手を動かします...そしてついに

さっきまでのんびり日光浴をしていたカナヘビが私の手の中にいました。ああ、感動。

このとき寺田さんの目には、年甲斐もなくガッツポーズをとっているおっさんの姿が映っていたそうです。

どうやら、ここは彼らのポイントのようで日が高くなるにつれて、奥の方からぞろぞろと姿を現し、数個体の幼体だけを飼育のために持ち帰りました。

さて、次は「八重山の小さな宝石・イシガキトカゲ」を探しに別のポイントへ移動しました。彼らは日当たりの良い崖などを好むため、事前に入手していたポイントへ行きました。
こちらは、難なく発見。天然記念物であるキシノウエトカゲと混ざっているのでしっかり見定めてから捕まえないと、私が捕まってしまいます。
この場所は適度に日陰と湿り気もあり、この他にも、ちょうどそういう時期なのでしょうか、孵化したばかりと思われるようなサキシマキノボリトカゲや、本土の物とは別種として扱われる予定の(サキシマ)ヌマガエル、 おなじみリュウキュウカジカヒメアマガエル。また、石をどければタイワンサソリモドキが姿を現します。
もちろん、今回は狙いはイシガキトカゲだけですので必要な物だけを持って帰りました。

さて、ここで、日中のフィールディングに幕を引き、捕まえた生き物のために今夜宿泊する民宿を探すことにしました。良い民宿も見つかり、おまけに路上販売でたったの30円で、うまいスターフルーツを食って、夜のフィールディングに備え、昼寝を始めたのです。
この、昼寝が後の後悔となるのも知らずに、二人はエアコンの中気持ちよく寝たのでした...

その1・・・おしまい。

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