西表島旅行記その2

2日目(夜の部)

さて、ここまでの疲れを取り去るように泥のように寝ていた二人がふ、と目を覚ますと早くも日はとっぷりと暮れて、民宿の夕食の制限時間ぎりぎりの7時。急いで夕食をとれば、まぁ、豪勢な食事。 ついアルコールが欲しくなりますが、昨日まで二日酔いで苦しんでいた人もいることだし、何より今日はこれから車でヘビ探しをする予定です。

食事も終わり、いざヘビ探しへ、と車に乗り込むと昼から気になっていたことを思い出しました。

「あ、ガソリン入れなきゃ。」

大した距離を走ったわけではないのですが、車は軽自動車であったためすぐに燃料タンクが空になるようです。民宿のお兄ちゃんに

「どっか、開いているガソリンスタンドないですか?」

と聞けば

「全部、6時で閉まるから、もうこの時間じゃ開いてないよ。」

えっ!?

そうです、後1時間早く目を覚ましてガソリンを補給しておけば良かったのです。余裕は持っていたつもりでしたが、さすがに一晩中車を走らせるには心細い量です。
しかし、もはやどうにもなりません。とにかく燃料が続くまで車を走らせることになりました。

まずは、昼間にサキシマカナヘビを見つけたポイントへ行って、夜の顔を見ることにしました。

夕べは林道には入りませんでしたので、久しぶりの夜の林道は心地よい緊張感を我々に与えてくれます。なんたって、まずは墓地から探索ですから...
ピッ、ピッ、ピッ...

聞き覚えのある音が夜の森に響きます。アイフィンガーガエルです。
ところが、森の深いところにいるのか一向に姿を見つけることができません。ようやく寺田さんが見つけても手が届く範囲ではありません。それでも、ハンターの面目躍如のチャンスです。足元をしっかりと固めて、きっちりとキャッチしました。

しかし、寺田さんの目の良さには驚かされます。

林道の脇道にそれると水田に出ました。と、足元を見るとサキシマハブ、ハブ!ハブ!!まあ、いっぱいハブがいました。中にはサキシマハブの色彩変異型(赤橙色)なども初めて見ることができました。

サキシマハブと言えば、昨日はこんなことがありました。
イシガキトカゲを探した林道でサキシマキノボリトカゲの写真を撮影しようと荷物を道の横に全部置き、しゃがみ込んで撮影を始めました。一通り撮影が終わり荷物を整理しようと手を伸ばすと、なんとそこにはサキシマハブがとぐろを巻いていました!!
荷物をとろうと私が伸ばした手の10センチほどの距離に彼の頭があったわけです。ひぇ〜。あっぶねー。最近フィールディングに慣れてしまい油断している私に「フィールドの神様」が私に忠告をしてくれたに違いありません。

ガソリンもまだあるようなので、いよいよ道路でヘビ探しです。
ところが、この日は何が悪かったのか数個体のサキシマハブとサキシママダラしか見ることができません。
ふ、と視界にヘビの姿が目に入ったので車を止めるとそこにはマダラでもハブでもないヘビの姿が。近寄って見てみるとそれはなんとサキシマアオヘビでした。 ある意味普通種ではありますが生態がほとんど不明であるという意味では希少種に入れても良いかもしれないヘビの発見に私は大喜びです。
ところがよく見ると、妙に元気がありません。さらに、頭の形が変形しています。
どうやら、車に頭だけ轢かれたようです。数分後このアオヘビは静かに息を引き取りました...
レッドデータリストではアオヘビは天然記念物であるキシノウエトカゲと同等の「準絶滅危惧種」に指定されています。
昼間のセマルハコガメにしても、一体、日本の行政は何をやっているのでしょうか?保護の指定だけして置いて後は何もしません。せめて、このような状況の調査だけでもしっかりできない物かと感じずにはいられませんでした。
もちろん、道路にヘビが出てくるからこそ私のようなものにもいろんな出会いができるのも事実ですが...

晴れない心のままではありましたが、いよいよガソリンも底をついてきたようです。

「今夜はここまでか...」

一発逆転を狙って土産屋の付近の花壇を探索するも特に変わった影は無し。
あきらめて自動販売機でジュースでも、と思い、何気なく照明の当たった壁を見ると数個体のヤモリが集まっていました。その中に妙なヤモリの姿を見つけることができました。

昨日から探し求めていたオガサワラヤモリです。

寺田さんの協力を得て確実にゲット。帰化種でもあり、いるところにはいる珍しいヤモリではありませんが、探し求めていたものが手に入ったときの感動は何者にも得難い物があります。

しかし、残念ですがガソリンも底をつき、フィールディング終了です。体力も余裕があり、必ずしも満足のいく結果が得られず不完全燃焼ですが仕方ありません。この日は悶々としたまま眠りについたのでした。


3日目

3日目の朝を迎えました。

今日は特に目標はありません。明日は朝一番の船で石垣へ戻らなければ帰りの飛行機に間に合わないので現実的には最終日です。ただひたすら最後の夜のヘビ探しに全力を尽くすのみです。

ところが、計算外の情報が入りました。民宿の食堂の壁に、誰が作ったのか見事な昆虫の標本が飾ってあったのですが、その中にマダラサソリの標本が!
マダラサソリはヤエヤマサソリとならぶ日本に分布するサソリの一つで、実は密かに今回のメインターゲットの一つになっていたのでした。
さっそく、民宿のご主人に情報を得るとすぐに、そのポイントに向かいました。どうやら宮古島でヤエヤマサソリを見つけた環境と似たような環境のようです。
良そうな環境をゆっくりと丹念に探すと寺田さんが発見!やった!と、その後も私も発見し、計2個体を採集して、もうほくほくです。

この日の日中は、来るべき夜に備えて、ゆっくりと体を休めることにしました。最後の夜でもあることですし、夕べのくすぶりもあり、今夜は徹夜でヘビ探しをする心構えです。
日陰があり、風通しも良さそうな公園で夕方まで昼寝をしました。

ところが、そんな中でも寺田さんは私のために(感謝!)ヤエヤマサソリを見つけてくれました。あれって、朽ち木の中にいるから見つけるの大変なんだよねぇ。

いよいよ日も沈み、近くの食堂でゴーヤチャンプルーとソーキそばを食ってエネルギー充填。もちろん車の方も朝に引き続き、再びガソリン満タンです。
つまり、準備万端。さぁ、行くぞ!!
ただ、ちょっと気になるのは、天候です。
ヘビを探すには多少湿り気が足りません。スコールでもあれば良いんですが、空は快晴。嫌な予感がよぎりますが、ま、徹夜で走っていれば何とかなるでしょう。おそらく深夜の道路は我々の貸し切りでしょうから。

道路でのヘビ探しの前に目を付けていた林道二カ所に寄っていくことにしました。

しかし、ここでも西表という大自然に対して、なんとも人間のちっぽけなことか、と無力さを感じさせる結果です。
本当に西表の林道というのは奥が深すぎて、手に負えません。不思議なほどに林道では彼らとの出会いはないのです。

それならばと、川沿いの林道におりてみます。
やはり、水があれば生命があります。とは言っても姿を現すのはサキシマハブばかり。落ち着いて歩かないと踏んでしまうかもしれないくらいハブがそこら中にいます。
足下にいるハブをどかしながら、先に進んでいくとどうやら開けた場所にでてきた様子。暗くてよくわかりません。田んぼでしょうか。
何かいないかなぁ、と懐中電灯で照らしてみます。

ガサッ。

何かが草の中を移動した様子。その場所を照らしてみます。

ガサガサガサガサッ。

何かいます。でも、ヘビやトカゲの移動にしては音が大きいようです。
犬?それともまさか、イリオモテヤマネコ!?

ドッ、ドッ、ドッ....

妙に大きな足音の先を照らせばそこには...

「牛!?」

我々はいつの間にか牧場に足を踏み入れていたのです。暗闇の中、目だけを光らせて、黒い巨体がこちらに向かって走ってきます。

「うわ、逃げろ〜」

ハブやサソリよりも数百倍怖い生き物との出会いは、本当にびびらせてくれました。みなさんもお気をつけ下さい。

結局、2つの林道でもさした出会いはなく、いよいよ為すべきことは道路でのヘビ探しだけになりました。
しかし、予想通りヘビの数は少ないようです。それと土曜日でやや島の人口が増えているからでしょうか、路上の轢死体の数が多いような気がします。
と、そんな中またもや「幻(?)のヘビ・サキシマバイカダ」の発見は

「まだまだ、あきらめずに頑張ろう。」

という気を奮い起こさせてくれます。

途中、前日オガサワラヤモリと出会えた場所で、気分を変えて懐中電灯を照らすと、なにやら細長いものが穴の中に入っていくのが見えました。
すぐに逃げられないように尻尾を押さえて、寺田さんに助けを求めて引っぱり出せば、昨日は死体しか見ることができなかったサキシマアオヘビでした。
実に渋い体色で一瞬連れて帰ることを考えましたが、所詮ミミズしか食わないヘビです。捕まえるときに噛まれた傷を見て

「おお、これでリュウキュウアオヘビにも噛まれたから、二大アオヘビに噛まれたことになるなぁ」

などと、なにやら訳の分からぬ自慢をして、感動的な出会いをさせてくれたアオヘビの後ろ姿に感謝をしつつ別れを告げました。

日付が変わる頃には、それでもようやくサキシマハブやサキシママダラといったおなじみの顔が姿を現し始めます。
明日にはここを立ち去り、次にいつ来ることができるか全くわからない私に最後の挨拶にでも来てくれているのでしょうか。
つい私も、ガラになく
「あんまり道路に出てくるなよ。危ないぞ。」
などと、サキシママダラに話しかけたりします。

おそらく、いくら夜とは言っても、せいぜいヘビが姿を現すのは4時くらいまででしょう。いよいよ、その時間が近づき、私たちの西表が終わろうかという、そのとき

「あ、ヘビ!」

大きさ、雰囲気から言ってマダラであろうとタカをくくりそのヘビを照らしてみると、
ん..?模様がないな...え...?

スジオじゃーん!!

そう、普通種であろうと言われながらも、石垣でふられ、この西表ならば出会えるだろうとの期待をしていたのにふられ続けたサキシマスジオです。
実は、ひそかに今回のメインターゲットの一つに出会えた私は、またもや年甲斐もなくガッツポーズ...

こんな素晴らしい出会いを最後に西表の夜は明け、フィールディングも幕を閉じたのでした。

今回は、私自身が考えていた種類は一部を除きすべて理想通りに連れて帰ることができました。しかしながら一方で「そう簡単に見られるものではない」とわかっていながらも期待した希少ヘビとの出会いが叶わなかったことが心残りです。

それでも、生き物の密度の濃さと何より今までのフィールド経験があまり役に立たない西表の懐の深さを痛感させられた旅になりました。

この場を借りて貴重な経験をさせていただき、また馬鹿者の道楽におつきあいいただいた寺田さんにお礼を申し上げたいと思います。

さぁて、これで、めぼしい南西諸島の島々には足を運んだなぁ。一段落か。金もないしね。嫁さん孝行もそろそろしないとね。

えっ!?久米島のヤモリが新種かもしれない!?小宝島のヤモリも!?加計呂間島に行けばタシロヤモリとヒャンが見られるかもって!?屋久島の夜の道路でシロマダラが見られるかもって!?ツシマスベトカゲの写真がねーぞ!ヨナグニシュウダにもリベンジしろ、って?.........

よーし、次はどこへ行こう....

おわり

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