この思いつきから1999年3月に与那国へ行くことを決意しました。
早速、様々な方法で同行してくれる人を募りました。
そして、私設ネット博物館「ハブの館」の館長である寺田考
紀さんが心強くも名乗りを上げてくれたのでした。
綿々と計画を練ったのですが、愚か者の私は大変なことに気づいたのです。
なんと、宮崎から与那国へ行くためにはまず、那覇に行き、そこから石垣へ渡り、ようやく与那国へ行くしかないことを...つまり、2回飛行機を乗り換えなければいけないのです。さすが、日本最西端です。
どうせ、石垣へ寄るのならば石垣島でもフィールディングをしていこうと計画を練り直し最終的には石垣で一泊、与那国で一泊そして石垣でもう一泊というスケジュールに決定しました。もちろん、一泊と言っても夜は森の中でフィールディングなのですが...
また、今回のフィールディングの最大の目的は与那国でヨナグニシュウダを見ることですが、何より二人とも与那国は初めてです。今までのフィールディングも経験者無しでやってきたのですがここで、貧乏根性が出ました。
「シュウダが見られなかったらどうしよう...」
実は与那国はあまり多くの種類の爬虫両生類が分布していません。ですから、目的の種類を見ることができなければ徒労に終わる可能性を持っているのです。
こうなれば、そうならないためにも情報を集めなければいけません。その中で寺田さんが与那国の「田島商店」のHPからその運営者であるkotoeさんとコンタクトをとり多くの情報を得ることができました。
準備も万端。情報もばっちりです。いよいよその日を迎えるのでした...
朝4時に起床。4日間家を空けるわけですから、飼育している動物達の世話をして置いて、いつものように鹿児島空港へ向かいました。
ところが飛行機を待っている間に天気予報を見ると、どうやらあまり天候はよくないようでした。
「まさか...」
昨年のヤンバルのいやな思い出が脳裏をよぎりました。
息も白くなるような寒空のもとヤンバルをさまよい何の収穫もなかった、あの思い出が。
とにかく、考えても時間は経過します。飛行機に乗り込みました。
沖縄上空へ来ても、いつものような青い海は迎えてくれませんでした。限りなく鉛色に近い海。いつもは他の人たちに青い色を見せてくれている海が私だけにいじわるをしているような気がしてなりません。
そんな気持ちを振り払いながら、到着口で寺田さんとの初めての顔合わせを期待していましたが...いない。
焦って、携帯で連絡を取ります。
「ああ、やっぱり。石垣行きの飛行機は300m以上離れた別の空港ビルから乗るんですよ。時間がないから走ってきて下さい。」
天候のことなど忘れるように全速力で走ったあと、ついに寺田さんと会うことができました。
石垣行きの飛行機の中では早速、爬虫類談義に花が咲きます。「初対面」など同じ趣味をもつもの同士の前には何の障害にもなりません。
しかし、それでも天候が気になります。
寺田さん曰く
「ヘビを見るなら、雨が降っていた方が良い。」
「トカゲを見るなら、晴天がよい。」
「最悪は、曇っていて温度が低いとき。」
さて、石垣の天気は...
おお、これまでの人生の中でこれほど神に感謝したことがあったでしょうか。やはり、普段からの行いが良いのでしょう。
薄曇りではありますが、温度と湿度はかなりの高さであることが感じられました。これなら期待できそうです。
宿の準備をして早速、フィールディング昼の部開始です。
寺田さんの今までの豊富な経験から予定していたポイントに向かいました。
尾根筋の山道を車で進んでいくと、早速道路を横切る黒い影。
まずはじめに我々を歓迎してくれたのは「八重山の小さな宝石・イシガキトカゲ」でした。
もちろん、車の前を横切ったスキンクは捕まえる術などありません。
「スキンクが活動しているなら、他の生き物も...」と前向きに考え先を急ぎます。
予定のポイントに到着したときはやや雲が多くなりました。こんな時は日陰を好むトカゲサキシマキノボリトカゲが我々の前に姿を見せます。沖縄本島のキノボリトカゲが激減していると聞いていますがまだこの種はかなりの姿を見られます。
しかし、逆に考えるとこの小さなトカゲの永遠の安住を祈らずにはいられなくなります。意外に飼育しにくい種でもありますので今回は1ペアだけを採集し、いつも以上に真剣に飼育に取り組むことを心に誓っています。
寺田さんがイシガキトカゲを発見、今までのトカゲキャッチの経験をフルに発揮し延々5分の格闘の後ついにまだ尾に青みの残るイシガキトカゲをゲットしました。
だんだんと私も目が慣れてきたところでついに背丈ほどの木の上にのんびりしている青いトカゲを発見しました。
これぞまさしく「カナヘビの王者・サキシマカナヘビ」です。大きくもその可憐な姿は私の心を惹きつけて止みません。
息を殺して徐々に距離を詰めていきます。
自分の手の長さと奴との間合いをしっかりと頭の中でシュミレートします。
奴がこちらを振り向いたらおしまいです。
時折吹く風が奴の乗っている葉を揺らすたびに奴に話しかけます。「そのくらいの揺れはいつものことだよな?それくらいじゃその場所の居心地は悪くならないよな?」
完璧な間合いになりました。確実に勝てる距離です。
頭の中で「左手は大きく広げて後方上から、右手はすくうように前方下から、おそらく奴は後ろからの気配に気づいて前に逃げるから右手は少しだけタイミングをずらそう...」
風のように私の手は奴に近づきます...
押さえ込んだ!!初めての感触に勝利を確信しました。
ぷちっ。
「えっ!?」
気の遠くなるような長い年月を経て、彼らが自らの体を傷つけることによって得た決死の逃げ技。その前に齢32の私の捕獲術など何の効果もありませんでした。・・・自切されました。
この後、旅行中に私は結局サキシマカナヘビの姿を見ることはありませんでした。・・・・・・・ごめんねカナヘビ君。
また、ここでは木の影などでホオグロヤモリミナミヤモリの姿も見ることができました。
ところが歩いているとしきりに足下のやぶの中から「がさがさっ」っと音がします。しかも、結構大きめの動物の気配。その正体をついに目にすることができました。
「星野さん、ほら。」
と、寺田さんが指さす方向を見ると、なにかうす茶色の生き物の姿。
キシノウエトカゲの結構大きい個体でした。宮古の時はまともに姿を見ることができなかったので感動です。もちろん天然記念物なので手に取ることはできませんがしっかりと目に焼き付けてきました。
次に、とある観光地の原生林に向かいました。
ここでもキノボリトカゲを多く見ましたが、もっぱら虫取りに専念しました。その中でもタイワンサソリモドキは徳之島で捕らえたアマミサソリモドキと少し異なる雰囲気を醸し出していることが興味深かったです。
ただし、地面にはいつくばって虫取りをしていると観光客がやたらに話しかけてきます。
客「何やってるんですか?」
私「・・・え〜とぉ、虫とってます。」
客「見せていただけますか?」
私「ほい、どうぞ。」
客「うわっ!何ですか、これ。」
私「何って、虫です。」
客「これサソリじゃないんですか?」
私「まあ、そんなところです。」
客「刺さないんですか?」
私「刺しません。」
客「捕まえてみようかな。」
私「やめた方が良いですよ。臭いから。」
と、こんな調子なので人気のないところへ入っていきました。で、結局二人とも林の中で迷ってしまったのでした...とほほ。
無事、林の中から抜け出た私たちはヤマビルに吸い付かれながらも次の目的地へ向かいましたが、その途中思ったことは石垣はどこを見ても良さそうなフィールドポイントだらけである、ということです。今回は基本的に絞ってフィールディングをしたのですが今度行くときはいろいろ見てみたいなあ、と思います。
今までの経験から初日の昼の部に張り切りすぎると夜が持たないことを経験で知っている私達は宿に戻り、夜の部まで体力を温存することにしました。
さて、夜になりました。
寺田さんおすすめのポイントに向かいます。
途中、市街地に近いところで飛んでいるヤエヤマオオコウモリの大きさに驚きながらもポイント到着。車のスピードを限りなく遅くして目を凝らしていると、道の真ん中に横たわる黒い影。
「あ、サキシママダラ。」
冷静な寺田さんとは正反対に、自宅で宮古産のマダラを飼育している私にとって八重山産のマダラは今回どうしてもゲットしたかったヘビです。臭さにも慣れていたので難なくゲット。大きさもナイスサイズです。
林道横に車を止め徒歩で山に入っていきます。
ふと、足下を照らすと、ついに出会いました!!
サキシマハブです!!
軽くとぐろを巻いて微動だに動かない様子は何か余裕めいたものさえ感じさせますが、フィールドでのハブ初体験の私はびびりまくり。
そんな私をしり目に寺田さんは、
「ちょっと痩せているなあ。」
と、ハブ以上の余裕で「超高性能ハブ捕獲器で難なく、しかし限りなく慎重にゲット!!・・・・さすが。
それ以降、サキシマハブは多く見かけるのですがそれ以外のヘビはいっこうに見かけません。先ほどのマダラはメスだったのでオスのマダラが欲しかったのですがマダラもいません。
「やはり、気温が低いからかなあ...」
などと縁起でもないことを考えてしまいます。
前方を歩く寺田さんが
「アイフィンガーガエル捕まえましたよお。」
アイフィンガーガエルは今回のカエルの目玉です。その生態は興味深いものがありますので。
見ると非常にかわいらしいカエルでした。また、鳴き声も可愛らしく八重山の夜を彩ってくれます。
アイフィンガーのかわいらしさとは裏腹の大きなカエルが姿を現しました。オオヒキガエルです。無理矢理外国から連れられてきたこのカエルも今では立派な国産種の顔ぶれでしょう。小さめの個体を捕まえて持ち帰ることにしました。
さて、その林道のほぼ最終地点は小さな湿地になっています。多くのカエルが鳴き声を競っています。足下で跳ねているカエルを電灯で照らすとそこにはヤエヤマハラブチガエルがいました。手にとって観察した後、リリース。
湿地の水たまりは相当深そうだったのでよけて湿地の奥に入っていきました。ハブに注意しなければいけないのですが、もはやお構いなしです。周りはカエルだらけ。一つの確信を持って私は懐中電灯を照らします。
「こんなにカエルがいるのなら、絶対にあいつはいるはずだ...」
そして電灯に照らされた先にいました!!
ヤエヤマヒバァです。図鑑で見た茶色の背中と襟元の白線、それに黄色いおなかをしたかわいいヘビ...のはずですが
でかい!!
ちょっと、イメージが違っていましたが今回の私の最大の目玉です。確実にゲット。喜び勇んでヘビを片手に32歳の大人が大はしゃぎで大声を出しながら夜の湿地を駆け回ります。
「寺田さ〜ん」
ズボッ...
あまりの喜びに湿地が深いことを忘れ、左足が股まで泥にはまってしまいました。...それでもヒバァは離しません。
続けて、同じ場所でもう一匹ゲット。しかもこれで同サイズのペアがそろったことになります。と、そのとき寺田さんの大きな声が...
「星野さん!!セダカ!イワサキセダカヘビですっ!!」
なんと!!あの幻のヘビが我々の前に姿を現したのです。寺田さんでさえ初めての経験から手ががたがた震えています。感動の一瞬でした。
結局、このセダカで満足した私たちは次のポイントに移動しました。
昼にフィールディングをしたところではリュウキュウカジカとヒメアマガエルの鳴き声によって昼とはまた違う世界になっていました。ここでも、サキシママダラとヤエヤマヒバァを発見。
また、寺田さんおすすめのポイントではこれも今回の目玉ミナミイシガメ(ヤエヤマイシガメ)を1ペアのみ採集。
「必ず繁殖させるから、待っていてくれよ。」と生息地へのお礼と約束が飼育への緊張感を高めます。
やはり、セダカヘビを見ることができてほっとしたのでしょう。二人とも概ね夜の石垣を満足したのか、心地よい疲労に包まれたので初日の夜の部はこれで終了にしました。
さあ、後は宿に戻ってオリオンビールで乾杯するだけです。って、まず、左足の泥を洗えっつーの。
明日はいよいよ与那国です。好天に恵まれることを神様に祈りながら、床につきました。
その1・・・おしまい。