久米島・沖縄本島南部旅行記

1999年6月に久米島と沖縄本島南部でフィールディングを行いました。

同年の3月に石垣島と与那国島へ行った私ですが、もはや自他共に認める「フィールディング病」の重症患者です。もはや、家内を含めて止めるものは周りにいません。

今回のきっかけは2つありました。
一つは昨年、宮古島へ同行して下さった櫻井夫妻との約束、すなわち「6月にどっか行きましょうね〜」
そして一つは飼育中のオビトカゲモドキの飼育が順調になってきたことにより、なんとか野性で他のトカゲモドキに会いたいと思ったことです。
(注:オビトカゲモドキ以外のトカゲモドキの3亜種はすべて天然記念物に指定されています。採集・飼育は禁止されています。)

昨年の徳之島へ同行していただいた今井さんに話をふると二つ返事で了解を頂きました。
こうなると話は早いです。
今回で5回目の南西諸島フィールディングですので準備も慣れたものです。かなりの油断をしてあっという間に出発当日を迎えました。いつものように普段絶対にしない早起きをしてはやる心を抑えながら鹿児島空港へ車を飛ばします。
途中に大雨に逢いますが、南西諸島はつい2、3日前に梅雨明けしています。何の不安もありません。

ところが、いざ空港へ到着し出発を待っているといろいろなことを考え始めます。

「三ヶ月前に石垣島へ行ったばかりなのに、仕事をほっぽりだしてこんなことしてていいんだろうか...」

「トカゲモドキなんて天然記念物なんだから、きっと少ないんだろうなぁ。オビの時はいまいちだったから今回は空振りになるかもなぁ...」

「最近、飼育している数が増えてきて手が回らなくなっているのに、また増やしてしまうのかなぁ...」

「トカゲモドキは天然記念物だから採集できないとなると、今回は何を持って帰ろうかなぁ。そんなに欲しいのいないしなぁ...」

そんな、不思議な不安に駆られながら飛行機に乗り込みます。

分厚い雨雲の中を通り抜ける飛行機...

そして、飛行機はついに雨雲を抜け南西諸島の上空に出ました。

私の不安などその瞬間に吹き飛びました。

初めての梅雨の明けた沖縄近海の青い海は私の頭の中までその色に染めてくれました。

「来て良かった...」

先ほどの弱気などどこかへ吹っ飛んでしまいました。あまりの海の美しさに、ただ私は、いつまでもこの海の上を飛んでいたい、と思い続けていました。

新しくなった那覇空港からいよいよ久米島への飛行機に乗り込みます。
久米島には一日早く島に入った今井さんが待っているはずです。

あっという間に飛行機は久米島に到着。空港で今井さんと再会を祝い、早速状況の報告を聞きました。

なんと、今井さんは昨晩すでにクメ(ヤマシナ)トカゲモドキとの遭遇を果たしているとのこと。否が応にも期待が膨らみます。

早速、夜に探索するポイントの選定をするために車を走らせます。

行きの飛行機の中でもそうだったのですが、島の中はアベックや若い女性を中心として一般の観光客でいっぱいでした。私は、と言えばこのくそ暑いのに長袖を着て、ひげも昨日から剃ってません。おまけに車の中で、むさ苦しい男二人。

でも良いのです。あのクメトカゲモドキが見られるのかもしれないのですから。

しかし、狭い島で観光地としても著名なわけですからポイントの選定は楽と考えていましたが、何とも甘い考えでした。

いつものように、どこを見てもポイントに見えてしまい結局は今井さんが夕べ発見したところで観察をすることに決めました。

しかも、本当は昼のうちに昼行性のトカゲの仲間などを観察しようと思っていたのですが、さすが梅雨明け直後の沖縄の日差しは普段ぐうたらな生活をしている私などに、自由に行動をすることを許してくれませんでした。ああ、もっと体力を付けなければ...

さて、宿で休憩し、ようやく待ちかねたフィールディングに出発です。

まずは、夕べ今井さんがクメを見たポイントへ。
ここは小さな沢へつながっている林道です。地質はいかにも沖縄にありがちな真っ赤な赤土です。

真っ暗な林道に車を止め一歩外に踏み出すと、そこはもうさっきまで我々が過ごしていた空間とは別の世界です。月の明かりで薄明るい空に山の木々のシルエットが浮かんでいます。しかし、その木までの距離はわかりません。九州でも経験できないような 高い湿度に包まれながらフィールディングの装備をします。

久しぶりにハブの生息地に足を踏み入れることに、いつも以上の緊張感を感じます。この暗闇の中では姑息な懐中電灯の明かりなどでは彼らにかないません。

しかし、この緊張感が私に「生きていること」を実感させます。至福の時です。

などと、カッコつけて自分に酔っている間に...

「星野さん!いましたよ!」

え、何が?まさか。

今井さんの懐中電灯の照らした先には...いました。クメトカゲモドキです。

こんなに簡単に見れちゃうの??

ちょっと拍子抜けはしましたが、何が起こったのか全然理解していないかのように、じっとしている彼らの観察をします。

でかい。黄色い。

これが、普段家でオビトカゲモドキを見慣れた私の印象でした。本当にこれが日本の生き物なのか...そんなことも感じました。

とにかく、しっかりと写真に収めます。これが目的だったわけですから。でも、逆に言うとこれで今回の旅行の目的が達成されてしまいました。

しかし、これが天然記念物じゃなかったらなぁ、なんて本音も出てしまいます。

さて、そんなこんなで幼体までも見られて大満足。自分の目で見るだけではもったいないので分布状況の調査のつもりで、他のポイントにも行くことにしました。

今度のポイントは本当に小さな沢です。今度はなかなかトカゲモドキには出会えませんでした。

途中、石の上で動く影はたいがいがリュウキュウサワガニ(?)かアオグロハシリグモです。特にハシリグモは本州で見るのとは段違いの大きさです。

と、沢を見ると何か見慣れた細長いものが...

おお!久しぶり。ガラスヒバァじゃないの。本来はゲットして帰りたいところですが、最近ヤエヤマヒバァの飼育に失敗をしてカエル食いのヘビはしばらくこりごりです。

しかし、そのヒバァへの興味はすぐになくなりました。目の前をさらに別の色合いの長い物が動いているのです。

「お、あの赤と白と黒の模様は...アカマタやね。」

まだ、野性でアカマタを見たことがなかったので、それなりの関心はありましたが、さして希少な種ではないので冷めたものです。頭が枯れ葉の陰に隠れていたので、

「どら、ちょっと捕まえて顔でも拝んでみるかな。」

非常に攻撃的なヘビで有名ですが、毒があるわけでなし、何より普段からヘビの攻撃はシマヘビの扱いで慣れてます。と、見えている部分から目で追って頭を探します。が...え、なかなか頭に到達できません!!

そう、想像以上に長かったのです。アカマタの大きさは話には聞いていましたが、ここまででかいとは...もはや、捕まえる気などは毛頭ありません。結局、今井さんがアカマタを欲しがっていたので悪戦苦闘しながらもキャッチ。2mほどの個体でした。

さらに、トカゲモドキも確認。ヒバァ、アカマタといればここの環境がヘビの生息に適していることは明らかです。

「ハブにとってもいい環境なんだろうなぁ」

なんて考えていました。

ふ、と何か気配を感じました。と、1mほどの小さな木に黄色っぽい色をした何か「長い物体」が引っかかっています。

「まさかね...」

そして、その「長い物体」の先端がこちらを振り向きました...

ハブです。

ついに、南西諸島5回目にして、琉球の守り神と出会いました。しかし、情けないことに足がすくんで一歩も動けません。と言うよりもむしろ動いたらそのまま彼(女?)の逆鱗に触れてしまいそうだからです。今井さんを呼んでようやく余裕を持ちました。

よく見ると、非常にきれいな模様です。それもそのはず、ハブの地域変異の中で最も美しいとされる久米島のハブなんですから。しかし、こんな時にその人間の普段からの行いがわかるのでしょう。
「カメラ忘れた...」

とにかく目に焼き付けておこうと思っていたら、今井さんがゲットに挑戦するとのこと。あぶねぇ〜。残念ながら(ハブにとっては幸運にも)、ハブは今井さんの突きだした又のある木の枝をすり抜けて森の中に消えていきました。

ある意味でハブと出会うことは私の夢でもあったので、その夢が「久米島の」というおまけ付きで叶ったことに大きな満足感を得ることができました。

このハブとの出会いをもって久米島のフィールディングに幕を引きました。

その1・・・おしまい。

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