人間33歳にもなると、良くも悪くも自分自身の事というのは熟知できているつもりになるものだが、ときとしてあらたな自分の欠点などを発見したりすると、妙に落ち込んだりするものなのだろうか。事にそれが、自分のやりたい事へ大きな障害となるような欠点ならば、ことさらその現実が自分の目の前に大きく立ちはだかるようにも感じる。
今回のフィールディングではそんな発見があった。
「臆病者」
それが私の目の前に立ちはだかった、私自身の姿であった...
ミヤコヒバァはまさに幻のヘビでしょう。なぜか個体数が少なく、どの図鑑を見ても写真を見つけることができません。前回のフィールディングでは発見はおろか、生息に適した水場さえも発見できないままで、完全にあきらめてしまった代物です。しかし、多少の経験を積みレベルもアップしたこの南西諸島フィールディングジャンキーの私ならば「できる!!」はずです。
今回はそんな根拠のない自信がありました。
西表島フィールディングでの経験からヘビの探索は車による「深夜のロードサーチング」が最も効率がよいことを知り、まずは今回目を付けた道路を深夜に何往復もすることを考えました。雨でも降れば最高なのですが、こればかりは贅沢を言ってられません。晴れていたからこそ昼間のトカゲ探しができたわけでもありますから。
ヤモリ探しを終えて10時すぎよりいよいよ探索開始です。しかし、思ったより深夜の交通量が多く嫌な予感が頭をよぎります。
さっそく、道路に動くものを発見。雰囲気からミヤコヒキガエルであることは難なく確認できますので、そのまま踏まないようにスルー。
と、前方に細長いものが...飛び出すように車を降りて懐中電灯で照らせばそこには...
残念!!まだ、轢かれたばかりのサキシマバイカダの死体が...
宮古島のバイカダは八重山のそれとはやや異なる斑紋パターンということで興味津々だったのですが、もはやこうなってはどうにもなりません。「もう少し早く、ここを通りかかっていれば...」と、後悔することしきりです。せめて、土に帰り賜え、との気持ちを込めて、彼(女)のすみかであったであろう道路端の林の中へ移動しました。南無...
しかし、このバイカダの発見で
「この道路にはヘビが出る!!」
と確信を持ったのです。
ところがやはり宮古は西表とは比べものにならないくらい個体数が少ないのでしょうか、幻のヘビどころか見れて当たり前のヘビさえも一向に見かけません。
仕方なく、自分から「攻める」姿勢を取るために林の中へ続く道を見つけ、林道を歩いてヘビを見つける行動をとることに決めました。
車を止めて、準備を万全にし車から降りたその瞬間!!
「怖...」
おお、なんと情けないことでありましょう。今まで、徳之島を皮切りに何度も深夜の林でフィールディングをしたこの私でありましたが、初めて一人で深夜の森へ足を踏み入れた途端に、闇への恐怖心が涌いてきてしまったのです。しかもついさっきは車のラジオからのニュースで
「石垣島の山林で白骨死体を発見」
なんて言うんだもん...
それでも勇気を奮い起こして歩きます。遠くではヒメアマガエルやサキシマヌマガエルの声が聞こえますが、今の私にとっては彼らの声さえも闇に対する恐怖におびえる私をバカにしているか、あるいは闇こそ我らの味方と闇に打ち勝った勝利の雄叫びのように聞こえてしまいます。こんなではフィールディングになりません。目の前に何かヘビでも出てきてくれれば気も紛れるのですが、個体数の少ない宮古島ではそれも期待できません。しまいには鼻歌を歌ったり、独り言などもつぶやいてみますが、ますます背筋に冷たいものが走るような有様。 まさに地に足が着かないと言う表現がぴったりになってしまいました。
やっぱり、フィールディングは友達と一緒が良いなぁ〜。
それでも、勇気を振り絞って、旅程中深夜のフィールディングは頑張りました。夜の水場では人為分布の可能性が指摘されているミナミイシガメ(ヤエヤマイシガメ)が、照明に集まるヤモリを狙って姿を現したのかサキシママダラが私の恐怖心を少しずつ和らげてくれたようです。
結局こんな有様でしたので幻のヘビ・ミヤコヒバァとの出会いはかなわず、私は「臆病」であるという自分の欠点のあらたな発見と、友人を連れてもう一回リベンジする決心だけを今回の結果としたのでした...
あー、情けねー。
ギャンブルにおいて「一点賭け」というのは大きな成果を得る可能性の裏に大きなリスクを負うものですが、今回のフィールディングはまさにそれを地でいくような結果でありました。ミヤコヒバァしかり。そして、トカゲ達との出会いもまたそうでした。
宮古島はトカゲの宝庫と言っても過言ではありません。まずは、ミヤコトカゲとの出会いから...
ミヤコトカゲは海辺に棲む非常に個性あるトカゲです。これも事前の情報で生息地のめどはついています。宮古島の美しい海を見ながらさっそく岩場と砂浜で探します。と、やはり情報は信頼あるものでした。
「あ、いた。」
難なく岩場でちょろちょろと動き回るミヤコトカゲを視認。
「さーて、捕まえるかね。」
と、余裕をかましますが、数分後にはそれがいかに甘い考えであったか思い知らされることになります。彼らの動きは他のスキンク類のそれ同様、簡単に人間の手に負えるものではありません。さらに、自然の知恵なのでしょうか、すぐに複雑な岩の陰や隙間へ隠れて手が出せなくなります。様々な手を使って捕獲を試みますが、全て失敗。
「しかし、待てよ、ちょっと様子が変だ...」
一頭しか見あたらないのです。だいたいトカゲの類というのは同じようなところに数頭は見られるのですが、この岩場には一頭しか見られません。試しに近くで岩ノリを採取している地元の方に話を聞くと
「あー、昔はよく見たんだけど、最近はあんまり見ないねぇ」
旨の言葉を宮古の言葉で話してくれました。そんなはずはない、と真っ白な砂浜で裸同然のような水着姿のカップルの白い目を背中に感じながらひたすら海岸を歩いて探します。
「うわっ」
砂浜の片隅になにやら大きなものがあるのを視界が捕らえました。
何があったのか大きなアカウミガメの死体です。もはやハエもたかりはじめていたので近づきませんでしたが、宮崎で見るそれよりも大きかったような気がします。しかしながら、問題のミヤコトカゲは他の岩場で別の一個体を確認したにすぎませんでした。どうやら、本当に個体数が少ないようです。
仕方なく、はじめの岩場に戻り、じっと件の個体を観察し、隙を見て捕まえようと思いましたが、個体数の少なさは心にブレーキをかけています。なぜか、岩場にいるときに福岡にいる卒業生から携帯に電話があり、海を見ながら話をしていると、なんと手元に別のミヤコトカゲが二頭姿を現しました!!
「チャンス」
いつものように、じっと待って相手の隙をうかがい、ついに我が手はミヤコトカゲをつかんだのでした!!
結局、その岩場には少なくとも四頭がいることがわかり、一頭だけを持ち帰ることにしました。持ち帰った私が言える立場にはありませんが、ミヤコトカゲは捕獲して飼育するにはあまりにも個体数が少なすぎます。幸い、日本以外では広く分布している種類ですので海外産の個体を入手できるようになるまでは飼育は控えた方がよいように思えます。
さて、次はミヤコカナヘビです。前回は比較的個体数も見られたので楽観していました。
話はそれますが、これまでの私の経験から爬虫類採集・観察は以下の二つの段階からなると考えています。
一、個体の発見
一、個体の捕獲
例えば、ヘビやカメなどは「発見」(というより出会い)するのが大変で「捕獲」にはさほど苦労はしません。一方、スキンクやヤモリは「発見」は比較的楽ですが、「捕獲」には多少の技術が要求されます。さて、それではカナヘビはと言うと、巧みに体色を利用して保護色になっていますので「発見」に相当苦労します。やぶの中から彼らの姿を発見するのは目が慣れないとなかなか見つかりません。また、運良く見つけることができたとしても、非常に素早く「捕獲」するのも相当な技術と熟練が要求されるように思えます。今回はこれを痛感しました。どんなに捕まえる技術に自信があっても、見つけることができなければどうにもなりません。
さて、前回比較的ミヤコカナヘビを見ることができた草むらに行きます。昨夜からほとんど徹夜のような状態で、そのまま午前中のフィールディングに突入です。時間もばっちりです。今頃カナヘビ達は寝ぼけ眼でのんきに日光浴をしているはずです。
が、様子が変です。草むらの様子は何ら変わったところはなかったのですが、全然いません。いるのは前回同様、異常に多いヤブ蚊のみ。
またしても嫌な予感が...
ここで基本に戻ります。青いカナヘビは目で探してもなかなか見つかるものではありません。まさに心眼...違う、「音」で探します。奴らが草の上を移動するかすかな音を聞き逃さないように、耳を澄まします...
カサ...
音のした方に目を凝らします...いた。
ようやく発見。今までのカナヘビキャッチの経験を生かして、確実に捕らえます(って、実はしっぽ切っちゃいました...とほほ)。なかなか立派な雄の個体。
さぁ、この勢いで次だ!!と意気込んでは見たものの、後が続きません。仕方なく、別の情報で聞いたポイントへ移動します。
おお、確かにここならいそう。私が勝手に名付けた「アオカナ草」もいっぱい生えているし、期待できます。
またしても、音がします。目を向けると茶色いトカゲが...
サキシマキノボリトカゲです。
今回は私の目標外でしたので、しばし観察。いつものように、木の裏へ裏へ移動します。うい奴...
ただ、なぜか今回はサキシマキノボリもあまり見られませんでした。採集業者が入っているのか?そんな嫌な考えも頭をよぎります。
さて、結局ここでもミヤコカナヘビの姿を見ることができず、まさに惨敗。それならば、前回はそれこそ掃いて捨てるほどいたサキシマスベトカゲさがしをします。
ところがこれも前回のポイントには全く姿を見せません。うーん、なんで?????あとから色々な方に伺ったところ、季節の問題ではないか、と言う意見が多かったです。と、いうことはGWにフィールディングを行った私の失敗だったか...
スベトカゲがいそうな暗くてじめじめした林床のリッター層(枯れ葉が堆積している場所)を引っかき回しますが、結局見られたのは一匹のみ。前回とは違い、宝物のようにして持ち帰ってきました。でも、このときにありがたい外道も見つけることができました。
林道横に置いてあった、半ば朽ち果てた倒木をひっくり返したときに、懐かしい奴がいました。そう、そいつの名前は...
「おおー、ヤエヤマサソリじゃーん。」
毒がないことは承知ですが、それでも敬意の念を込めて慎重にデリカップの中へ。家で飼育していた先代ヤエヤマは子孫を残した後、産後の肥立ちが悪かったのか、星になってしまったので今度こそはもっと長期飼育をできるようにする事を心に誓ったのでした。
さて、このようにおおむね時期の問題か、必ずしも良い成績を残せなかった今回のフィールディングでしたが、最後の最後に念願の「あいつ」に出会うことができました。カナヘビ探しの途中、ふ、と路傍の石を裏返してみると...いました。
ブラーミニメクラヘビ(笑)です。
どう見ても黒っぽいミミズ。こいつらが、我々と同じ脊椎動物ねぇ...なんかねぇ...
不本意な思いが多かった今回のフィールディングでしたが、メクラヘビとの出会いが、私にあらためてフィールディングの難しさと、奥の深さ、そして魅力を感じさせてくれました。
さらば宮古島...
ちっくしょー!!また来てやるからなぁー!!!!
今度こそリベンジ(←死語)だぁー!!!!
おしまい。