我がフィールディングの原点・徳之島再び

2001年は、本当に我慢の年でした。

対馬へは足を運び、家内とははじめてのフィールディングを奄美大島という、未知のポイントも開拓したのですが、考えてみれば南西諸島でのフィールディングを充分に行えず、まさに「不完全燃焼」のまま、21世紀最初の年という記念すべき年を終えてしまいます。

「こんな調子では俺の21世紀は、どーなる!?」

・・・・・・

だからと言って、奄美大島からの帰途に、家内に
「来週は徳之島へ行こう」
と言い出すのもなんですが...
さらに、それを一言で
「いいよ。行こう。」
と言う家内も家内です...
ま、でもそんな家内の異例の理解で「我がフィールドの原点・徳之島」旅行が電光石火で決まったのでした。

まさに「南西諸島フィールディング中毒」で苦しんでいる私ですが、その始まりこそ、この徳之島でした。
3年前に初めて同好の友人と訪れた徳之島。そこで我々の見たものは、まさに図鑑でしか見たことがない多くの両爬達。そして、本土では考えられないような生息密度。民宿の窓を開ければ手の届くバナナの木に止まっているキノボリトカゲ、草の緑と見まがうばかりのアオカナヘビ、夢にまで見たオビトカゲモドキ...「楽園」その一言に尽きる経験でした。

「もう一度、徳之島へ行きたい」

ふ、とそんなことを考えることが最近は多くなっていました。
さらに現実的には
・奄美で見られなかったオオシマトカゲ
・前回は自分で捕まえることができなかったオビトカゲモドキ
この二つが今回の大きな目的でもあります。

ただ、正直なところ先週の奄美では天気に恵まれず「不完全燃焼」で終わってしまったので、今回もまた...などという嫌な予感もないと言ったら嘘になります。やはり、いつものような緊張感が私を押しつぶしそうになります。
そんな不安を一抹だけ持ちながら、そしてまた二週続けての南西諸島行き、という常識人としては到底考えられないような自分達の行動に疑問を持ちつつも飛行機はいつものように一路、徳之島へ向けて飛びます。

3年半ぶりの徳之島は、何も変らない表情で私を迎えてくれました。

「あの山に、あの森に、彼らが待っていてくれる。」

そう考えるだけで

「来てよかった...」

と、ほっとできます。
でも、今回は、なんと一泊二日の強行軍。しかも前回の奄美の不完全燃焼分を取り返すつもりですから、満足行く結果を出さねば、それこそさらにヘコんでしまうことでしょう。わずか一週間ではありましたが、丹念に計画も立ててきました。時間は無駄にできません。早速フィールディング開始です。

天候はやはり雨を予感させますが、奄美大島と異なり結構ポイントは絞れていますので気になりません。
まずは前回でも最初に行った、バーバートカゲ、ヘリグロヒメトカゲ、オビトカゲモドキ、キノボリトカゲを見ることができたポイントへ。
家内を連れての悪路の走行は気も使いますが無事に到着。車をとめて、いよいよ外に出ます。 が、ここで一気に緊張感が爆発します。なんと言ってもここは日本一気性の荒いハブがいる島です。
そう、徳之島のハブは最も気が荒い、と言われているのです。そんな場所に家内も立ち入らせるのですから緊張もします。やぶなど危なさそうな場所へ近づかないように注意し、もちろん私も注意をしながら生き物の影を追います。
早速目の前に小さな茶色いカエルがぴょんぴょんと跳ねて姿を現します。


ちょっと恥ずかしがり
リュウキュウアカガエルです。先週の奄美でも見られたのですが、これはこれでかわいいカエルです。
さらに林道横の赤土の法面にはオキナワキムラグモという一風変ったクモたちの巣が多数ありました。姿を拝もうとスコップで掘り出すと妙に足が長い個体が出て来ます。
「おおー、キムラグモの雄じゃん!!」
と、日本でも数人しか分からないような驚き方をして標本用にゲットしておきます。いや、ほんとにマニアック。
さて、その場所に行く途中に、よさげな水場を発見していたので、帰り道に寄って行きます。


ビッグヒット・アマミタカチホ
その辺に積み重ねられていた朽ちたサトウキビの切りカスをどけていくと、小さな小さなヘビがちょろちょろ...

「え!?まさか!!」
急いで捕まえます。この独特の鱗の光沢...そうです。アマミタカチホです!!
これははじめての出会いでしたので大感激...
幸先よし!!


アオカナヘビ・かわいすぎ
さらに近くの大きなクワズイモの葉の上には図鑑でよく見るシチュエーションよろしく小さな小さな緑色のトカゲ・アオカナヘビが乗っかっていました!!かわいいー。
もちろん水の中には相変わらずのおなじみヒメアマガエルの変なオタマがたくさんです。普通のオタマに見えるのはリュウキュウカジカでしょうか。
フィールディング開始からわずかな時間しか経っていませんが、この成果ならばいやがおうにも期待が高まります。

メインは夜ですので昼間のうちは下見と準備の時間にあてますので、家内の雨具を購入するために島を横断して町に移動します。
もちろん途中のポイントの下見はします。
懐かしい道路を走っていくとちゃんとした道路なのに何か細長いものが...
#正直言うと、さすがに私も目が肥えてきて、大体ヘビは走っている車の中からでも見れば種類は分かります。でも、ここは盛り上げる意味でももったいぶります。


ガラスヒバァ・有毒、真似せぬよう
ヘビを轢かないように絶妙のドライビングテクニックで通り過ぎて路肩に車を止めて、ダッシュで降りて走り寄れば、結構大きなガラスヒバァでした。弱毒蛇なのでかまれないように注意深くゲット。口から血を出していましたが、元気でしたのでひとしきり家内に見せびらかしてリリース。意気揚揚とその場を立ち去ったのですが、ここでもう少し慎重に動いていればね...

目的の町で雨具や食料、飲み物などを買い込んであとはさらに島を回ってポイントの選定をします。天気もよくなってきたので、先週の奄美で見つけることができなかったオオシマトカゲを求めて海に近い公園へ行きます。昼飯も済ませ、トカゲの姿を求めます。しかし残念ながら今回も縁がないのか、ちょっと自信があったのですが見つけることができませんでした。
午後になってきましたので内陸部に入りポイントを探しまくります。


キノボリを拉致

さすが徳之島、道路のど真ん中で結構大型のオキナワキノボリが得意のポーズをキメてます。これも捕まえて家内に見せびらかします。
さすが徳之島、キノボリを逃がすために大きな木をみつけキノボリを捕まらせれば、なんとその木にはバッチリ保護色中のミナミヤモリが。記念撮影も済ませ、その場所を離れようとした、そのときでした。
ミナミヤモリは昼でも登場

「カーデガンがない」

?南西諸島とはいえ、9月の後半にもなれば夜は多少は冷えます。家内はその防寒のために、確かにさっきまではカーデガンを羽織っていたのです。

「は?」

どこで無くしたのか、家内のモスグリーンのカーデガンがありません。どうやら、どこかに忘れてきたようでした。
今までの自分達の行動を振り返って、考えてみましたが、分かりません。ま、高いものと言う訳でもないし、特別に大切なものでもありませんから、仕方なし、ということでフィールドの探索を続けました。
いくつかポイントを廻ったのですが、やはりカーデガンのことは気になってしまいます。フィールディングにケチがつくのも面白くありません。ちょうど私も眠くなってきて、運転を代わってもらおうと思っていたので、家内に運転をさせて今までのルートを逆に廻ってみました。
で、先ほどガラスヒバァを捕まえた場所を通りかかった、その瞬間。こんなときにも私の鍛えぬかれた動体視力は、道路の端っこの方に落ちていたモスグリーンの塊を見逃しませんでした。

「はっけーん!」

どうやら先ほどヒバァを見せるために車から降りた瞬間に膝にかけておいたカーデガンが落ちてしまったようでした。とにかく一件落着。


祈・交通安全

これで心置きなくフィールディングできるってもんです。ちょうど日も傾いてきて、いよいよ夜の部開始です。

さっそく道路脇の休憩所で着替えをします。公衆トイレがあったので

「たぶん、あいつがいるんだろうなー...」


↑あいつ・ホオグロヤモリ

なんて思って天井をライトで照らすと、やっぱりいました。ホオグロヤモリです。やっぱり、南西諸島の夜はこいつから始まらなくちゃね。

まずは、昼間にアマミタカチホを見つけたポイントにアタックです。

昼なお暗かった森は、当然のように漆黒の闇でした。
足元にはハブが出るかもしれません。慎重に最初の一歩を踏み出します。そしていよいよ家内もハブの住む夜の森へ一歩を踏み出します。さぁ、慎重に...

って、おい、もう外に出てウロウロしてんじゃねーか!あぶねーって。
#絶対にマネをしてはいけません。

どうやら、家内は私と違って真っ暗闇の森なんて全然恐くないようです。しかも夜の林道に私が先導して奥へ入ると、いつの間にかに横道に逸れて一人で中へ入っていってます。おいおい...
恐るべし、いやなんと心強い女か...


ハナサキガエル緑色タイプ

そんな林道の真ん中にでかいアカガエル・アマミハナサキガエルが鎮座しています。緑色タイプですのでなんともキレイです。
残念ながら目的のオビはいませんでしたが、ま、こんなもんでしょ。次へ行きます。

さて、いよいよ昼間に目をつけておいた一番のポイントにアタックです。
長い林道が伸びていて、途中に小さな沢がぼちぼちあります。こんなところがトカゲモドキの好きな場所であることは分かっています。
ビビリ屋の私ですが、今回は強い味方がついてくれています。ポイント到着前には、予想通り雨も降ってきました。あまり強く降ってはいくら多湿が好きなオビも出てこないでしょうから、急ぎます。
途中で林道を横切る長いものを発見。すわ、ハブ!?とも思いましたが、見慣れた赤と黒と白。おなじみのアカマタ様です。よく考えてみたら徳之島ではアカマタ様は初めてです。ありがたや〜

ポイントに到着し、雨具を装備していざアタック。
ゆっくりとライトを頼りに探索します。しばらく行くと...

「おおー!オビ発見!!」

3年半ぶりに野外で見るオビトカゲモドキはなんと凛々しく神々しいことか...
慎重にキャッチしパッキング。
この瞬間があるからフィールディングはやめられません。来てよかった。
この調子なら、と思ったのですが、雨が悪いのか、時期が悪いのか、それともまさか怖れていた「捕獲圧」のためかなかなかオビは見つかりません。なんとか頑張ったのですが、残念ながら結局オビは2匹しか見つけることができませんでした。残念。
しかし、フィールドの神様はそんな私に同情してくれたのか、とんでもないプレゼントを私に用意してくれていました!!

「ん...???」

足元の落ち葉の間から見慣れない色彩の細長いものが...まさか、この色は...他の生き物と見間違うわけなどありません!これこそ、まさにフィールドの神が作った傑作・日本が世界に誇る生きた宝石...その名も...ハイ!!

どりゃーーーーー!
いや、素晴らしい。初めて自然で目にするハイの美しいこと。猛毒がありますので、慎重にゲットすれば、得意技の尻尾の先での「チクチク攻撃」炸裂です。いや、それもよしっっっ!許す!
ひとしきり眺めて撮影も終わりました。
さて、どうする?
まさにハイは日本のヘビファン垂涎の的です。一瞬は持って帰ろうかと思いましたが、所詮はメクラヘビやトカゲ食。しかも、私の周りでは長期飼育すら成功していないという飼育難易度がべらぼうに高いヘビです。どうせ、持って帰っても美しい死体が一つ増えてしまうだけでしょう。サヨナラ、ハイ。また今度会おうな!

オビも捕まえたし、ハイも見れた。興奮覚めやらぬまま、次のポイントを目指し、すっかり交通量の少なくなった夜中の道を走ります。
さて、次のポイントに到着しました。と、助手席を見ると...
おーい、寝てるやんけー。
二週続けての、そして慣れないフィールディング。疲れたのでしょう。感謝...
って、寝られちゃったら、これ以上フィールディングできないじゃんかよー。

残念ながら、家内を、車の中とは言え、夜の林道にほったらかして山になんか入れません。(実は一人で夜の山に入る度胸がないだけ、とも言う)
ま、収穫はまあまあ満足できたから、これで良しとしましょう。
と言うわけで夜の部はオビを2匹捕まえて終了したのでした。

車の中で仮眠をとって、夜が明けました。
昼の部のターゲットは奄美のリベンジ・オオシマトカゲです。トカゲ探しは何と言っても天気が命です。ここでも神様は私に味方をしてくれたのか、昨夜の雨が嘘のよう。快晴です!
さっそく、トカゲが出て来そうな場所に移動します。タイムリミットは午後1時。全力を尽くすしかありません。
3年半前にバーバートカゲを発見した林道へ向かいます。ここでも我が家内の実力が発揮されます。なんと、先週の奄美の影響か、あっという間にでっかいトクノシマヒラタクワガタを発見。マッスル氏への土産とするためゲット。さらにその後、足元から、これまた先週の奄美で最後にゲットした個体と同じくらいの大きさの、かわいいオキナワキノボリトカゲをゲット。先週のがオスで、今回のがメスのようなのでこれまたゲット。

さらに、別のポイントへ異動する途中の結構大きい道路では、昨夜の雨に誘われて悲劇に見舞われたのか、アカマタやガラスヒバァの轢死体が。南無...
ところがタイミングをずらしてしまったのか、リュウキュウアオヘビのベビーを発見!かわいい!!
そして、なんとここでもまた昨夜の夢の再現か?ハイを発見!やっぱり、キレイ。
涙を呑んでリリース・ハイ

「これは俺に飼って欲しいということだろうか...」
とも思いましたが、やっぱりリリース。車に気をつけろよ〜。

さて、陽も高くなり何ヶ所か、ここぞと言うポイントにアタックをするのですが、残念ながら出てくるのはヘリグロヒメトカゲくらいです。何よりも、未だに私はオオシマトカゲを見たことすらありません。どんな環境に住んでいるのかも知りません。だんだんと不安になってきます。

奄美の時と同様、遂にタイムオーバーが近くなってきました。
最後のアタックと思い海岸近くの公園に向かいます。オオシマトカゲはオキナワトカゲと亜種の関係にあります。私は沖縄本島の港の近くの公園で多くのオキナワトカゲを目撃しています。その経験から、最後は海の近くで悔いを残さぬチャレンジをしたかったのです。
休日ではありますが、夏の日差しを感じさせる公園には人影はありません。今は休業している売店の壁には昼間からホオグロヤモリがうろうろしています。

「ここもダメか...」

とあきらめかけた私の視野の片隅に、遂に私は見つけたのでした!!気持ちよさそうに日光浴をしているオオシマトカゲを!!
これがホントのラストチャンスでしょう。体温が上昇して活性が最大になっている、そしてその結果としてマッハの動きのトカゲたちを追い続けます。
やはり、大型の個体はとてもではありませんが手に負えません。そんな私の目の前にまだ若い、2歳くらいのオオシマトカゲが姿を現しました。
周りに隠れるところもありません。じりじりと間合いを詰めて、彼らに負けない速さの動きで両手をトカゲの上に...

「捕まえた〜!!」

尻尾の青い色が消えかかっている、かわいいオオシマトカゲが私の手の中にありました。
車の中で、地面に腹ばいになってトカゲを追いかける私の姿を冷ややかに見ていた家内のところに走り寄って、捕まえたばかりのオオシマトカゲを見せびらかします。
これで、ようやく奄美から引きずっていた「もやもや」が吹き飛びました。

さて、これで何の悔いも残さず帰途につけるのですが、よく考えてみたら、一番大切な種類を見ていませんでした。
今回、家内を徳之島に連れて行くにあたって

「いいか、徳之島は奄美あたりと一緒にしちゃいけないぜ。徳之島のハブは一番凶暴なんだ。フィールドでは俺の言うことをちゃんと聞いておけば、怖れることはないがな...」

と、自分もまだ一度も見たことがない徳之島のハブの話をしていたのです。なのに今回は、そのハブを見ていなかったのです。
ハブ・轢死体でも迫力満点

ハブは夜行性ですので、もはや真昼間になってしまった、この時間では見られるわけがありません。また、今度の機会にしよう、などと思っていた直後でした。なんと、空港に向かう途中の道路の真ん中で、まだ新鮮(?)な大型のハブの轢死体を発見!!
死体ではありますが、ハブの恐ろしさと魅力を充分に感じさせるモノです。少なくとも1.5m以上はありますので頭の大きさも子供の「こぶし」くらいはあるでしょうか。
今までは、サキシマハブやヒメハブ、ツシママムシなどを扱ってきた私でしたので、

「いつかはハブを捕まえてみるか!」

などと思っていたのですが、完全に意気消沈しました。こんなでかい毒ヘビは扱える訳がありません。やっぱり、ハブは南西諸島の山の守り神なのでしょう。
畏敬の念を込めて、そのハブの死体を道路横の山の中に帰したのでした。

このハブが、今回の徳之島の最後の出会いになり、今回のフィールディングも幕を閉じたのです。

今回のフィールディングでは、一つだけ気になったことがあります。
それは「オビトカゲモドキ」の少なさ、です。
いくら、一泊二日とは言え、今まで多くのトカゲモドキの生息場所を訪れて、数多くのトカゲモドキを見てきた私が、たったの2匹しかオビに出会えなかったのは、どうしても納得がいきません。
もちろん、山は深いし、もっといいポイントもあったのでしょう。また、時期もどちらかと言うとシーズンオフだったかもしれません。それでも、気になるのは「捕獲圧」と「開発」によるオビの減少です。
あくまでも、このページは「すちゃらか夫婦の旅行記」ですから、これ以上は書きませんが、いつかオビが徳之島から消えてしまいそうで心配になりました。
そんな意味からも、今回の2匹のオビは私の宝物となるでしょう。

などと言っている間に、私たち二人は家に着いたのですが、当然と言えば、当然。これから数週間は爪に火をともすような思いで、極貧生活を強いられることでしょう...

おしまい。


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